「夫婦で住宅ローンの審査を通過する為に共有名義でマンションを購入した。」
「世帯主である夫が亡くなった為、妻、その子供達と共有名義で土地を相続した。」
不動産を複数人でお金を出し合って購入した場合、資金割合に応じて所有権が付与されますが、その所有権を「共有持分」と言います。
このように、複数人で不動産を共有するケースは往々にしてありますが、共有名義で不動産を購入、所持する場合は、事前に知っておくべきポイントがいくつかあります。
どんな事に注意しなければならないのか?共有持分について詳しく解説していきましょう。
目次
共有持分って何?どんな時に発生する?
共有持分とは、一つのものを複数人で共同所有した場合に、それぞれの所有権の割合の事を指します。持分の割合は、そのものを購入した時に出した費用割合で決めるのが一般的です。
上記の説明で分かる通り、共有持分とは土地や建物だけではなく、車や船などを共同購入する場合でも使われる言葉です。
共有持分は、民法250条で下記のように定義されています。
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
出典:民法250条
この条文は、持分割合を定めなかった場合、それぞれの持分を等しく定めるという意味合いです。ひとつの土地を二人で共有している場合、それぞれの持分割合を定めなかった場合は「1/2ずつの持分を所有している」という状態です。
共有持分は所有権であり、居住権とは全くの別物
共有持分はあくまで所有権であり、持分を持っているからといって、その物件に住んで良いか?というとそういう訳でもありません。難しい話ではあるのですが、所有権とは別に「居住権」と呼ばれる権利が存在します。
居住権は賃貸契約で良く使われる言葉ですが、居住している部屋からいきなり出ていけと言われても、即座に出ていく必要はなく、居住者は居住を継続しても良いという権利です。これは生存権の保護という側面があり、財産法上の権利である借地権とは区別されています。
難しい話が続いてしまいますが、共有持分だけ所有していても、当該物件に住み続けている人がいる限りはその人に居住権が付与されており、持分所有者が勝手に部屋に入ったり、建物を壊したりしてはいけないのです。
配偶者居住権って何?
居住権の説明に付属して、配偶者居住権の説明もしておきましょう。
2020年4月に、相続に関する民法が大きく改正され、新しく配偶者居住権という権利が認められるようになりました。
これはどんな権利かと言いますと、例えば夫名義の戸建やマンションに夫婦で住んでいたが、夫が亡くなってしまったとしましょう。その場合、妻以外に相続人がいると、その住んでいる不動産を遺産分割する必要があるのですが、めぼしい相続財産がなく、他の相続人に対して代償金を支払う余力がない場合は、住んでいた不動産を手放さざる得ない状況が起こるケースがありました。
しかし、立ち退きする人物が高齢者だった場合は、そこから賃貸や不動産を購入し直すには、精神的にも肉体的にも負担が大きいという理由もあり、その人の居住権を保証しようというのが今回の権利創設の理由です。
配偶者居住権の成立要件と存続期間は下記を参照ください。
配偶者居住権は、相続開始のときに居住していた配偶者に認められる権利です。
1.遺産分割
2.遺贈・死因贈与
3.家庭裁判所
の決定のいずれかによって成立します(改正民法1028条1項1号・2号、1029条、現民法554条)。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には認められません(改正民法1028条1項ただし書)。なお、建物の使用は無償です。
居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(改正民法1031条)。
配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間です(改正民法1030条)
今回の主題から何が言いたいかと言いますと、共有持分を所持していても、このような権利に守られている事で何も出来ないという状況が作られるという事です。相続放棄と同様に持分の放棄も可能ですので、固定資産税がどの程度課されるのかによって慎重に検討する必要があるでしょう。
共有持分が発生しやすいケース
ここからは、どんな時に共有持分が発生しやすいのか?解説していきましょう。
夫婦名義で不動産を購入するケース
共有名義で不動産を購入するケースで最も多いのが、夫婦名義で不動産を購入するケースです。
今までは夫が単独で住宅ローンを契約し、妻は専業主婦に入るというのが典型的な家庭像だったように思えますが、最近では結婚後も働き続けるバリバリのキャリアウーマン妻も増えてきた為、ローン審査が通りやすいペアローンで不動産を購入する事が増えてきました。
この場合の問題点ですが、ペアローンで借入上限額を引き上げられる一方で、結婚後すぐに離婚してしまった場合、まあまあ大きめの金額の残債が残ってしまい、共有持分の売却も不動産自体の売却も叶わないという不幸が起こり得るのです。抵当権を抹消出来ない為、売却出来ないという事です。
その場合、損を覚悟で金融機関同意のもと任意売却をするか、預貯金が全くない為に何の動きも取れず苦しい思いをするというかなりきつい展開になりがちです。もちろん、結婚した時点で離婚を想定している人なんて存在しないんですが、最悪の展開も考えて夫単独名義で不動産を購入すべきではないかと思います。
もちろん、ローン審査が通るギリギリまで良い住宅を購入したい夫婦もいるでしょうし、住宅ローン控除を夫婦で受けた方が税金面でお得になるなど、メリットがない訳でもないですが、、リスクとリターンのバランスを見て慎重な選択が求められます。
第三者と共同購入するケース
よくあるケースとは言えないですが、第三者と物件を共同購入し、シェアハウスなどを運営するケースはあります。一人で購入出来るレベルの物件よりも、共同購入して大きな物件を購入した方が高利回りを出せるので、複数人でお金を出し合って購入する事があるのです。個人投資家同士というよりも、知人同士の場合が多いでしょうか。
これの問題点は、夫婦や親戚レベルであればまだ救いがあるのですが、仲の良い知人レベルでお金の問題等で揉めてしまった場合です。
知人レベルでお金の問題で一回でも揉めた場合、関係性の修復はほぼ不可能と言っても過言ではないので、第三者と共同購入する事は避けるのが無難でしょう。
不動産を相続するケース
そして最後のよくあるケースが、不動産を相続するケースです。相続人はほとんどの場合で複数人いますので、これも共有持分が発生するケースとしては頻発します。
相続するものが不動産だけでなく、多額の現金や高級絵画や高級腕時計など、資産価値の高いものがたくさんある場合は、相続割合に応じて均等に分け合えば良いですが、不動産が一番高額なケースがほとんどです。
不動産を相続し、遺産分割する方法は以下の通りです。
- 換価分割
- 対象の不動産を売却してしまい、その売却金額を相続分に応じて分け合う方法です。相続する現金がほぼなく、資産価値の高い不動産を相続した場合、相続税が高額になってしまう為、換価分割をするパターンが多いです。
- 代償分割
- 特定の相続人が単独で不動産を相続する代わりに、他の相続人に対価として財産を与える分割方法です。これは必ずしも現金でなくても、同価値の財産を渡しても大丈夫です。ただし、このケースの場合、遺産分割協議書に渡す現金や財産の詳細を記しておかなければ、贈与とみなされ贈与税が課される可能性があるのでご注意ください。
- 共有分割
- 共有持分が発生するパターンがこの「共有分割」。ひとつの不動産を相続分に合わせて、それぞれに所有権(持分)を分け合う方法。ただし、相続が発生した時点で被相続人の配偶者が住んでいるケースが多く、その場合は居住権が守られる為、持分を相続しても何も出来ない状況が多く、そのまま持分を売却してしまう方も多いです。
相続では、被相続人が大地主で、多くの土地を所有していた場合、不動産の価値に応じて相続税が課せられますので、土地を売却しないと相続税が支払えないというケースが多々あります。相続税は、「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」が申告・納税期限ですので、出来る限り早くから動かなければなりません。(都心部で価値が高い底地等は売却先がなかなか見つからない事もありますので)
自分の持分だけを売却したい場合も、相続登記をした後でなければ売却出来ない為、相続は生前の内にしっかりと対策をしておく事が重要です。
共有持分の権利者が出来る事
共有持分の権利者は、当該不動産に対して、出来る事と出来ない事があります。そして、それは3つに分ける事が出来ます。
- 共有持分の権利者が単独で出来る事
- 共有持分の権利者過半数の合意がないと出来ない事
- 共有持分の権利者全員の合意がないと出来ない事
ここでは、上記3パターンで実際に何が出来るのか?を解説していきましょう。
共有持分の権利者が単独で出来る事
まずは、共有持分の権利者が単独で出来る事です。
不動産の保存行為
不動産の現状を維持する為に行う行為を「保存行為」と言います。
例えばですが、壊れている建物を修繕したり、不法占拠者に対して明渡し請求などは、不動産そのものの価値を守る為にする事ですので、単独で行っても何ら問題はありません。
不動産を使用する事
持分権利者は単独で、当該不動産を使用する事が出来ます。全ての所有権を持っていなくても、居住する事には問題がありません。
夫婦で1/2を共有した状態でそれぞれが住んでいたり、実家を相続してそのまま住み続けるのに問題がない事は分かるでしょう。
ただし、既に誰かが住んでいる不動産の持分を購入したり譲渡された場合に、その不動産に住む事は、先に住んでいたものの居住権を侵害してしまう可能性もある為、慎重に行わなければなりません。
自身の所有している持分の売却
持分権利者は、他の共有者の同意なく、自分の持分を他者に売却しても問題ありません。不動産全体を売却する為には全員の承諾が必要になりますが、あくまで自分の所有権のみの売却であれば自由に行ってしまって問題ありません。
これは、他の共有者も同じ事が出来ますので、気が付いたら共同所有者が別の人間だったという事は稀に起こるケースです。
自身の所有している持分の放棄
不動産は所有しているだけで固定資産税が掛かりますので、持分だけを所有していて、その不動産に住む気がないのであれば、持っているだけで損をしてしまうケースもあります。その為、自身の所有している持分を放棄するのは単独で行って構いません。
放棄した分の持分はどうなるのかというと、相続と似たようなイメージで、他の持分権利者に放棄された持分が「所有権移転」という形で帰属されます。
ここで注意しなければならないのは、この放棄で帰属された持分の所有権者が「みなし贈与」を受けたのではないか?と判断されてしまう事がある点です。周りから見れば、正式な贈与という形ではないが、価値のあるものを無料でもらっていると見えてしまうので、贈与税が課せられる場合があるのです。
放棄している側は特に何の問題もありませんが、その点は知っておいた方が良いでしょう。
共有持分の権利者過半数の合意がないと出来ない事
続いて、共有持分の権利者過半数の合意がないと出来ない事です。
不動産の利用行為
不動産を賃貸借として利用したり、賃貸借契約を解除する場合は、持分権利者の過半数の同意がなければ行う事が出来ません。
また、賃貸借契約を結んで不動産を利用した場合、そこで得た家賃収入は、持分の割合によって分配しなければならず、それを共有者に分配せずに得ていた場合は、裁判等によって訴求して請求される可能性もあるので注意が必要です。
不動産の改良行為
保存行為はあくまで、「その不動産の価値を守る為に行う修繕等」の事を指していますが、財産としての価値を変えない範囲で使用する改良行為(多くの場合でリフォームを指します)は、持分権利者の過半数の同意が必要です。
勝手に壁をぶち明けて間取りを変えていたり、建物を壊して駐車場にしたりなど、保存を目的としない改良行為は全て単独で勝手に行う事は出来ません。
共有持分の権利者全員の合意がないと出来ない事
最後に、共有持分の権利者全員の合意がないと出来ない事です。
不動産全体の処分・売却
これは言うまでもないと思いますが、不動産全体の処分や売却は、持分権利者全員の同意が必要です。共有者の一人が知らない間に、勝手に売却されていたら、その人が著しく不利益を被る可能性があるからです。
ここで良く問題になるのは、共有者の一人が行方不明等で連絡が付かない場合です。もしもどんな手段を取っても見つからない場合は、家庭裁判所で「不在者財産管理人」を選定してもらい、行方不明者にとって不利益にならない程度の判断を下してもらうなどの方法を取る事が出来ます。
また、共同所有者全員を代表して、一人で売却や処分を行う場合、それぞれの共有者から委任状を預かる必要があります。その委任状を記入してもらう為に、全ての共有者に連絡を取って場合によっては会いにいかなくてはならないので、非常に煩雑な手続きになるでしょう。
共有名義で不動産を所有する際に注意すべきポイント
共有持分について解説してきたので、この時点で既に共有名義で不動産を所有する危険性はある程度認識出来たのではないかと思います。
ここからは、共有名義で不動産を所有する際に注意すべきポイントを細かく解説していきます。
不動産を売却する際は共有者全員の同意が必要
先ほども軽く触れた通り、複数人で共有している不動産を売却する為には、共有者全員の同意が必要です。
これは考えれば当たり前の事で、複数人で購入資金を出して購入したものを、単独の共同所有者が勝手に現金化して良いはずはありませんよね。
自分の持分だけを売却する場合は誰の許可もいらない
上記で説明した通り、複数人で共有している不動産そのものを売却する場合には共有者全員の同意が必要ですが、自分だけの持分(所有権)を売却するだけなら、他の共有者の許可なく売却する事は可能です。
これは、持分割合を分割出来る土地に限らず、マンション・アパート・戸建どれであろうと、持分を売却する事は出来ます。
しかし、「居住権」ではなくあくまで「所有権」。共有持分だけを購入してもその建物に住む事が出来る訳ではないので、居住用に購入しようとする人は皆無です。では、誰が購入するのか?というと、個人投資家や不動産業者です。
共有持分を持っていれば、所有権割合に応じて居住者に家賃を請求したり、後述する共有物分割請求訴訟を提起し、分筆したり不動産そのものを売却して、持分割合に応じた金額を受け取る事が出来ます。
ここ最近では、「共有持分を専門的に取り扱う不動産買取業者」も数多く存在し、売却を検討する際には下記記事をご覧頂ければと思います。
共有物分割請求訴訟という罠
今の日本の司法では、ひとつのものを複数人で共有して所有する事は、トラブルが起きやすく、良い事ではないとされています。所有権を複数人が主張できる状況が良い事ではないのは分かりますよね。
では、その状況を解消する為にはどうしたら良いでしょうか?
- 共有者の持分割合に応じて分割する
- 単独所有になるように売買交渉を行う
- 共有物を売却し、持分割合に応じて売却金額を分け合う
考えられる方法は上記の3点。この内のどの方法で進めるのが最善なのかを、裁判所を通して決定するのが「共有物分割請求訴訟」です。
ここまでが共有物分割請求訴訟の説明で、これの何が罠なのか?と言いますと、この訴訟はどんなタイミングであろうと共有者が訴訟を提起出来るという点にあります。
- 離婚してすぐに元夫/元妻に対して訴訟
- 相続完了後、相続人に相談せずに訴訟
- 共有者に相談なく買取業者に持分を売却。その後、買取業者が訴訟
こんな事も往々にして起こり得るのです。共有持分のトラブルというのは、共同所有者同士でのコミュニケーション不足が引き起こすものがほとんどで、何かしら金銭面や待遇面に不満がある場合がほとんど。
持分所有者の誰もが訴訟を起こす権利を有しているので、急に共有物分割請求を起こされないように、コミュニケーションをとり続ける必要があります。
固定資産税の納付が面倒且つ、トラブルが起きやすい
共有不動産でとてもトラブルが起きやすいのが、固定資産税の納付です。これが本当に厄介。
何故かというと、固定資産税は共有者全員で持分割合に応じて支払うものなのに、固定資産税の納付書は代表者の所にしか届かないからです。(連帯納税義務と言います)
これにより、離婚後は大抵旦那さん側に納付書が届きますし、相続した不動産の場合は被相続人に一番近い人物が代表者となって納付書を受け取り続けます。もちろん、代表として納付をするだけであって、共有者に固定資産税を持分割合に応じて請求する正当な権利を有しています。
しかし、滅多に合わない親族間でひとつの物件を相続した場合など、中々お金を請求するのが億劫になってしまうケースって沢山ありますよね。そういう場合は非常にトラブルになりやすいんです。
代表者が一人で固定資産税を払い続けていた場合、共有者に訴求して支払いを請求する事が出来るので、突然訴えられてしまう事も。(時効もあります。)
必ず、共有する時点で「固定資産税は誰が支払うのか?支払った後にどのように請求するのか?」を決めておく必要があります。
固定資産税を支払う代表者を変更する場合は?
状況に応じて、固定資産税の支払い代表者を変更しなければならない事もあり得るでしょう。その場合は、各市区町村役場で取得出来る「共有代表者変更届出書」を提出してください。
届出書により変更した内容は、翌年度の納税通知書から変更されますので、変更が必要な場合は出来る限り早く提出するようにしてください。
結論:不動産は共有名義で持つべきではない
最後に改めて結論を書きます。不動産は共有名義で持つべきではありません。
今後共有者との関係性がどうなるのかは誰にも分からない中、共有名義で所有する事は様々なトラブルを誘発する可能性が高いからです。
もちろん、共有名義で購入を検討するという事は、購入資金を一人で捻出するのが難しいという状況がほとんどだと思いますが、融資を検討するなど、単独所有する方法を再考してみてください。
幸せの絶頂時に「最悪の展開を考えろ」なんて言いたくはないのですが、共有持分を売却したいと相談に来る方の3割近くが離婚してすぐの奥様側というケースが非常に多いんです。結婚してすぐの離婚の場合、残債がかなり残ってしまっている為、持分自体の売却もなかなか難しいので、出来る限り夫単独名義で購入出来るレベルのマンションや戸建を購入すべきではないかなと個人的には思います。