共有名義の不動産はどうやって売却する?状況・トラブル別の売却方法や手続きを解説します

共有名義の不動産はどうやって売却する?状況・トラブル別の売却方法や手続きを解説します

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「二世帯住宅を建てるときに親と共有名義で家を建てた」「結婚を機に夫婦共有名義でマイホームを購入した」など、不動産が共有状態になることは珍しいことではありません。

ただ、時間が経つにつれて諸々事情は変化するもの。親が亡くなる・離婚などのタイミングで不動産の売却を検討することも少なくはないでしょう。

もっとも、共有名義不動産は共有者ひとりの判断だけで売却できるものではありません。なぜなら、共有者全員が物理的には分けることができない不動産に対して持分権を有する状態だからです。

そこで、今回は、共有名義不動産の売却方法注意点について詳しく解説します。あわせて、共有者同士の交渉を上手に進めるコツ・共有者間のトラブルから早期に離脱する際に役立つ「共有餅専門買取業者」についても紹介するので、最後までご一読ください。

共有名義不動産の売却方法は4つ

夫婦・親子・相続など、不動産の共有状態にはいろいろなパターンがあります。

ただ、共有名義不動産がどのような状況で共同所有されていたとしても、基本的には次の4つの方法のなかから売却方法を選択するのが一般的です。

  1. 共有者全員の同意・承諾で売却処分する
  2. 共有名義から単独名義に変更して売却処分する
  3. 共有不動産の自分の持ち分だけを買取業者に売却する
  4. 共有物分割請求

それでは、共有名義不動産の売却方法について、それぞれ具体的に見ていきましょう。

共有名義不動産の売却方法1:共有者全員の同意・承諾で処分する

共有名義不動産の1つ目の売却方法は、共有者全員の同意・承諾をベースとして手続きを進めるというものです。

そもそも、「1つの不動産が共有状態にある」ということは、「当該不動産に対して複数人が共同して所有権をもっている状態」「共有者がそれぞれ自分の共有持分権を上限に権利を有する状態」ということ。登記事項証明書に複数名の共有者と持分割合が掲載された状態です。

つまり、単独所有なら所有者ひとりだけの判断でどのような処分をしても誰かに迷惑がかかることはありませんが、共同所有のケースには「誰かの独断で処分行為等を許すと他の共有者とのトラブルに発展しかねない」という根本的な課題が存在するということを意味します。

したがって、共有名義不動産を売却するためには、単独名義で売却するケースとは異なる配慮・手続きを経なければいけません。

共有名義不動産を売却するには全員の同意が必要

まず押さえておくべきポイントは、共有名義不動産の「売却」には共有者全員の同意が不可欠だということ。

なぜなら、共有者それぞれが不動産に対する共有持分権をもっているのに、共有者の一部の同意を得ずに第三者に不動産全体の所有権が移転されてしまうと、当該共有者の知らない間に財産権が侵害されることになってしまうからです。全員の同意を欠く共有名義不動産の売却契約は無効・取消しの対象になりますし、二重売買などの複雑な法律問題に発展するおそれがあります。

したがって、共有名義不動産の売却時には、各共有者の持分割合に関係なく、かならず全員の同意を得てから手続きを進めましょう

共有名義不動産に対して共有持分権者ができること・できないこと

ただし、「共有名義不動産に対するいかなる法律行為も全員の同意が必要」という画一的なルールを設定することにも問題がある点に注意が必要です。

たとえば、建物が倒壊するおそれがあるなどのケースでは喫緊に工事などに着手しなければいけないため、わざわざ共有者全員に連絡をとっている時間がないことは明らかでしょう。

そこで、共有関係については、「どのような行為をするのか」という視点に基づき、要件・手続きが定められています(民法第251条252条)。

共有持分権者が単独でできること(保存)
  • 保存行為:現状維持に必要な修繕・管理行為。不法占拠者への対処なども含む。
  • 使用行為:共有者自身が居住することなど。
共有持分権割合の過半数の同意が必要なこと(管理)
  • 利用行為:短期的な賃貸借契約の締結・賃貸借契約の解除など、不動産の性質を変更せずに収益を上げる方法。
  • 改良行為:リフォーム・リノベーション工事を行うなど。
共有持分権者全員の同意が必要なこと(変更)
  • 処分行為:売却、抵当権などの担保権の設定行為、借地借家法の適用を受ける長期賃貸借契約を締結、建物の建て替え工事など、不動産に物理的変更を加えたり法律的処分に係わったりするもの。

なお、過半数の同意が必要な管理行為については、「一般的な共有物の管理」と「組合財産の管理」で過半数の判定方法が異なります。

具体的には、一般的な共有物の管理では「共有者の持分価格の過半数」であるのに対して、組合財産の管理では「組合構成員の頭数の過半数」です。つまり、不動産を3人で共有している場合には「3人のうち2人が賛成しているから管理行為ができる」と判断するのではなく、「共有持分価格の過半数が賛成しているから管理行為ができる」というプロセスを経なければいけません。

たとえば、3人の共有状態だとしても、1人だけで過半数以上を共有持分権を有する場合には、実質的に当該共有者の単独判断で管理行為を実行できます。

共有名義不動産を全員の同意で売却する流れ

共有者全員の同意に基づいて共有名義不動産を売却する流れは次の通りです。

  1. 共有持分権者全員の承諾を得る
  2. 不動産一括査定サイトを利用して相場・業者をチェック
  3. 不動産仲介業者と契約を締結(全員で)
  4. 売却活動(広告掲載・内覧・値引き等の条件交渉など)
  5. 売買契約の締結
  6. 物件の引き渡し・支払い・共有者間での清算
  7. 譲渡所得が発生した場合等には確定申告がそれぞれ必要

「共有者全員が参加しなければいけない」という点を除けば、原則として単独名義の所有者が売却活動をする流れと同様です。

ただし、どの不動産業者に依頼をするのか、締結する仲介契約の種類はどれにするのか(専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約)、売り出し価格はいくらにするのか、想定売却期間はどの程度を見込むのかなど、共有者の間で丁寧に話し合いを進めなければいけない点にご注意ください(話し合いがまとまらない場合の対処法については「共有者同士で処分方法の合意がまとまらない場合」をご参照ください)。

また、登記済権利証または登記識別情報、土地測量図、境界確認書なども用意しなければいけないので、共有者の誰が必要書類を集めておくのかについてもあらかじめ話し合いをしておきましょう。

なお、不動産の売却活動を端的かつ有利に進めるためには、不動産一括査定サイトの利用がおすすめです。以下のリンク先にて一括査定サイトの選び方のコツやおすすめサービスを紹介しているので、あわせて参考にしてください。

おすすめ不動産一括査定サイト31選!何を基準に選ぶべきかを解説します

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2021年12月27日

共有名義不動産の売却手続きに参加できない共有者がいるなら代理制度を活用しよう

以上のように、共有名義不動産を売却するには共有者全員の同意が必要です。そして、原則として、売買契約締結や決済・引き渡しなどの取引上重要な場面では、全員が出席して手続きを進めなければいけません

もっとも、共有者が遠方に居住していたり、怪我・病気が原因で身動きが取れない状況にあったりなど、「売却自体には賛成しているのに手続きには参加できない」という事態もあり得るでしょう。このようなケースでは、代理制度を活用して共有名義不動産の売却手続きを進めることができます。

代理(任意代理)とは、本人から権限を与えられた代理人が、本人の代わりに本人のために与えられた権限の範囲内の意思表示・法律行為をする制度のこと。売却活動に参加できる共有者が不参加共有者の代理人となれば、委任を受けた代表者だけで売却活動を代行できます。

任意代理制度で不動産を売却する際には、別途以下の書類等を準備しなければいけません。

適法な委任状
代理権限の範囲、顕名、受任者及び委任者の署名押印(手書き及び実印)、不動産情報(土地なら所在地情報・地番・地目・地積など、建物なら所在地情報・家屋番号・種類・構造・床面積などの登記情報)の明示など。
その他添付書類
印鑑登録証明書・住民票の写し・登記事項証明書等(3カ月以内に発行したもの)・本人確認証(運転免許証やマイナンバーカードなど)など、委任者・受任者双方のものが必要。

なお、不動産の共同所有者のなかに、認知症・植物状態など自分で法律行為の判断ができない人が含まれているケースでは任意代理制度は利用できません。なぜなら、任意代理制度を利用するためには「代理権授与契約」を締結する必要がありますが、事理弁識能力のない共有者は「代理権を与える」という契約自体が不可能だからです。

このような場合には、法定後見制度・任意後見制度・家族信託制度などを利用する手段が考えられます。詳しくは、以下のリンク先にて詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。

親名義の不動産を売却する方法はある?状況別に必要な手続きや売却の流れを解説します

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2021年9月1日

共有名義不動産の売却方法2:単独名義に変更して処分する

共有名義不動産の2つ目の売却方法は、共同名義から単独名義に変更してから売却処分を行うというものです。

共有者が複数存在する状態では、どうしても全員の同意を得るのに時間がかかりますし、合意内容がまとまらないことも少なくないでしょう。また、共有者のなかには、売却自体には賛成しているが売却活動に積極的に参加したがらない人がいるかもしれません。

そこで、共有名義を解消して単独名義に変更すれば、単独所有者が売却活動するときと同じ状況を作り出すことができます。具体的には、次の3つの方法をご検討ください。

  1. 他の共有者すべての共有持分を買い取る
  2. 他の共有者すべてから共有持分を贈与してもらう
  3. 他の共有者に共有持分を放棄してもらう

比較的簡単なのは、他の共有者全員から持分を買い取る方法(①)です。個々の共有者と売買契約を締結することになるので、それぞれに対してお金を支払いましょう。売り渡す側からしても、お金を手に入れられるわけですから、納得を得やすいと考えられます。

これに対して、共有持分の贈与・放棄(②③)は現実的には難しいでしょう。なぜなら、他の共有者に金銭的なメリットが見つからないからです。例外的に、「不動産を所有しているだけで相当高額の税金・管理コストが発生しているためにすみやかに共有関係から離脱したい」と考えるような事情がある場合など、「共有関係を離脱するだけで大きなメリットがある」という共通認識があるケースなら贈与・放棄という手段でも単独名義に変更できる可能性があります

もっとも、いずれの手段で単独名義に変更するとしても、利害が対立する共有者との間で根気強く交渉を進めなければいけません。

共有名義不動産の売却方法3:自分の持ち分だけ処分する

共有名義不動産の3つ目の売却方法は、自分の共有持分だけを売却処分するというものです。この方法は、「共有者全員の合意を得るのが難しいから全員での売却は難しい」「共有者間で買取・贈与の交渉が難航して単独名義に移せない」などのように、硬直的な共有関係が原因でスムーズに売却活動を進められないケースで役立ちます

自分の共有持分だけを売却する方法として、次の2つの手段を参考にしてください。

  1. 共有持分専門買取業者に売却する
  2. 分筆して単独名義の土地として売却する

それでは、共有名義不動産の自分の持ち分だけを売却する方法について、それぞれ具体的に見ていきましょう。

なお、共有持分自体の特徴・具体的内容については以下のリンク先をご参照ください。

共有持分って何?共有名義で不動産を購入する時に注意すべきポイントとは

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2021年7月31日

共有持分専門買取業者に売却する

不動産買取業者に依頼をすれば、共有持分をそのままの状態で買い取ってくれます。

ただし、共有持分の買い取りは難易度が高いもの。不動産業者が引き受けた後、他の共有者と交渉を行ったり、後述するような共有物分割請求を実践したりなど、かなり手間のかかるものです。

したがって、共有持分の買い取りを希望する方は、かならず共有持分を専門に取り扱っている会社(訳あり物件買取業者)に依頼をしてください

なお、以下のリンク先でおすすめの共有持分専門買取業者を複数社ピックアップしています。業者選びの際にお役立てください。

【全国対応】共有持分を高く売却したい人におすすめの不動産買取業者15選

【全国対応】共有持分を高く売却したい人におすすめの不動産買取業者17選

2021年8月1日
共有持分専門買取業者に依頼をするメリット・デメリット

共有持分専門の買取業者に依頼をする際には、事前にメリット・デメリットを充分検討しておきましょう。

共有持分専門買取業者に依頼するメリット
  • 確実に売却できる(最短即日)
  • 苦労せずに共有関係をめぐるトラブルから離脱できる
  • すぐにまとまった現金が手に入る
共有持分専門買取業者に依頼するデメリット
  • 価格相場よりも値引きされる(不動産価格の共有持分割合分から2~5割程度減額)
  • 他の共有者との人間関係に亀裂が入るおそれがある

たとえば、共同名義人たちと協力して不動産仲介業者に依頼をしたとしても100%売却できるわけではありません。なぜなら、不動産仲介業者自身は買主にはなってくれないので、購入希望者が現れない限りは成約できないからです。

これに対して、買取業者に依頼をすれば、不動産会社が買主になって売買契約を締結してくれるので、確実に物件を売り渡すことができます。「売りたいのに売れない」というもどかしい状況を回避できる点でメリットが大きいでしょう。

もっとも、特に共有持分などの難易度が高い不動産を買取業者に依頼をした場合には、市場価格から相当値引きされた金額でしか成約できない点に注意しなければいけません。なぜなら、売却後に買取業者側で分筆・転売等の手続きを進めることになるため、その分の手数料が差し引かれることになるからです(ただし、不動産仲介業者に依頼をして成約に至った場合にも仲介手数料が差し引かれます)。

また、家族・親族同士で共同所有者になっている場合には、買取業者が共有持分を獲得することに抵抗感を抱く人が少なくないでしょう。今後の関係性に悪影響が生じるのを避けたいのなら、買取業者への依頼は避けるべきです。

したがって、「多少安くなっても早期に共有関係をめぐるトラブルから抜け出したい」と考えるのか、「共同名義人との面倒な交渉・手続きを経てもできるだけ高値で物件を売却したい」と考えるのか、自分にとっての優先順位を参考にしながら処分方法を決めてください

分筆して単独名義の土地として売却する

「分筆」という方法を使えば、共有持分だけを単独名義に変更して、「単独名義の不動産」として売却することが可能です。

分筆とは「筆」を分けること。筆とは、登記簿上で土地を数える時の単位を意味するので、「分筆=土地を分けること」ということになります。

共有名義不動産を分筆することによって土地の権利関係は単純明快に。1つの土地を単独所有している状態を作り出せるので、売却活動を進めやすくなるでしょう。

分筆を実施する際の流れは次の通りです。

  1. 土地家屋調査士に分筆業務を依頼する
  2. 分筆前の土地の境界を確認し、確定する
  3. 分筆案を作成する
  4. 境界標を設定する
  5. 分筆登記をおこなう

分筆は、ただ単純に土地を分ければ良いということではありません。共同所有者と話し合いを進めながら、持分割合にしたがって、どのように境界を確定するかなど、慎重な話し合いが求められます。

また、接道義務・最低敷地面積の要件を充たさない場合には再建築不可物件となってしまうので、買主が見つからないリスクが高まるでしょう。

したがって、分筆によって単独名義に変更した後に売却を想定しているのなら、分筆前の段階から不動産仲介業者に相談をして手続きを進めることをおすすめします。

洸太郎
洸太郎

分筆によって単独名義に変更できるのは「土地」だけです。中古・新築にかかわらず、戸建て住宅・建造物が存在する場合には分筆による共有関係離脱の方法は探れないのでご注意ください。

共有名義不動産の売却方法4:共有物分割請求

共有名義不動産の4つ目の売却方法は、共有物分割請求を実施するというもの。共有名義不動産の処分方法について共有者間で話し合いがまとまらない場合には、裁判所の手続きを利用することによって共有名義不動産の処遇を決することができます。

ただし、いきなり裁判所に手続きを申し立てることができるわけではなく、次のような流れで共有物の処分方法(売却を含む)について話し合いを進めなければいけません。

①共有物分割協議
他の共有者との間で話し合いの場を設ける。通常は、内容証明郵便を送付して協議を申し立てた証拠とする(後の調停・訴訟を活用するため)。
②共有物分割調停
裁判所において、調停委員・調停官に間に入ってもらって話し合いをする方法。それぞれの共有者の言い分を調停委員・調停官がすり合わせてくれるので合意を形成しやすい。ただし、調停委員・調停官は和解を強制することはなく、また、調停を申し立てられた側もかならず応じる必要がないため、終局的な解決に至らない可能性も否定できない。
③共有物分割訴訟
裁判所の判断によって共有物の処遇を決めてもらう方法。かならず何かしらの解決方法は提示されるが、原告や共有者などの意向に沿わない結論が出される可能性もある。当事者間の希望をできるだけ反映させるためには、協議・調停段階で和解をしてしまうのが適切。
洸太郎
洸太郎

共有物分割訴訟を提起するとなると、最低でも半年程度は手続きに時間を要します。また、裁判所に出廷する手間・弁護士や司法書士などの専門家への依頼料などの負担も発生する点にも注意が必要です。

共有物分割請求の結果は3パターンに大別できる

共有物分割請求を実施した場合、概ね次の3パターンで共有名義不動産の処遇が決せられることになります。

現物分割
現物分割とは、各人の共有持分割合に応じて不動産を分割する方法。分筆手続きを経て、全員がそれぞれの持分について単独名義を取得する。ただし、原則として現物分割が実施されるのは土地だけ。例外的に、マンション・アパートなどの区分所有権を観念できるケースでは建物でも現物分割が行われる。なお、現物分割によって共有持分割合通りの分け方ができない場合には、部分的価格賠償による金銭的調整・持分の交換などの方法で解決を目指す。
代償分割
代償分割とは、共同所有者間で「持分とお金」を交換する方法。当事者間で共有持分の売買を行うというイメージがふさわしい。なお、代表者ひとりが全員分の共有持分を引き受ける「全面的価格賠償」と、共有持分間で生じる差異を金銭的調整で埋め合わせる「部分的価格賠償」の2つの方法で処理される。
換価分割
換価分割とは、共有名義不動産を売却して代金を共有者間で分割する方法。「お金を分ける」という公平な手段なのでトラブルが発生しにくい。ただし、競売手続きで共有名義不動産が換価処分されると市場相場よりも2割~3割減額されてしまうことが多いので、金銭面での妥協は必要。

基本的に、共有名義不動産の処遇については当事者の考えが尊重されます。

たとえば、共有物分割訴訟のステージに至ったとしても、裁判手続き中に当事者の和解が成立しそうであれば、裁判所はなるべく和解成立を促すことが多いです。

それならば、最初から当事者間で冷静に話し合いを進めた方が、時間・費用の面でメリットが大きいといえるでしょう。売却を検討する初期段階から不動産仲介業者などに依頼をして、スムーズに共有者全員の合意形成を目指すのが適切だと考えられます。

なお、共有物分割請求訴訟については、次のリンク先をご参照ください。

共有物分割請求訴訟って何?法律に詳しくない素人でも分かるように解説します

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2021年7月30日

共有名義不動産売却時の注意点を状況別にチェックしよう

不動産の共有状態はいろいろなケースで見られる事象です。

そして、各事象ごとに特有の注意点があるので、慎重に手続きを進めなければいけません。

そこで、共有名義不動産がトラブルに発展することが多い次の4つのケースについて、それぞれ特有の注意点について解説していきます。

  1. 離婚で婚姻関係を解消するケース
  2. 相続のタイミングで取得した共有名義不動産の扱い
  3. 共同所有者の一部が所在不明の場合
  4. 共有者間の話し合いがまとまらない場合

共有名義不動産売却時の注意点1:離婚の場合

婚姻関係にある夫婦が共同名義でマイホームを購入するというのはよくある話。住宅ローンも共同名義で組んでいることも少なくないでしょう。

残念ながら離婚によって婚姻関係を解消する運びとなった場合には、かならずペアローンを組んだマイホームの処分方法を早期に検討してください。

なぜなら、もし、離婚後も共有名義不動産の状態が継続してしまうと、住宅ローン残債をどちらが負担するのか(未払いが発生したときに双方が残債の一括請求を受けて信用情報にキズが付くリスクがある)・固定資産税などの費用負担をどうするのかなどの面倒事が離婚後も発生することになりますし、離婚後に不動産を売却するとしても元配偶者と一緒に手続きを進めなければいけないなど、いつまでも過去に引きずられた状態になってしまうからです。

そして、離婚のタイミングで夫婦の共有名義不動産の処分方法を決める際には、次の2ポイントを押さえてパートナーと交渉を進めましょう。不動産をめぐる高額資産・負債の割り振りを決めなければいけないので、ある程度時間の余裕をとっておくことをおすすめします。

①夫婦のどちらかが共有名義不動産に居住するのかを決める
最優先に決めなければいけないのは、離婚後も夫婦のどちらかが不動産に住みつづけるのか否かという点。手放すのなら夫婦そろって第三者への売却手続きを進めなければいけません。他方で、夫婦のどちらかが住まいとして利用するのなら、単独名義への登記変更手続き・住宅ローン残債との関係での財産分与・贈与税などの税金面への配慮などで利益を調整する必要があります。
②住宅ローン残債の返済方法を決める
ペアローンを組んでいる場合には住宅ローン残債の扱いに注意が必要。第三者への売却によって残債全額を返済できる(アンダーローン)なら抵当権抹消手続きなどをこなすだけ。その一方で、オーバーローンの場合には、夫婦のどちらが返済を継続するのかなどの交渉が不可欠です。特に、どちらか一方が物件に居住しつづける場合には住宅ローンの借り換え・連帯保証人の追加などの審査が課されることになるため、すみやかに金融機関へ相談しましょう。

離婚に至るまでの過程で、「もう二度と相手の顔も見たくない」ということもあるはず。また、離婚時には他にもいろいろな話し合いを進めなければいけないため、「住宅のことなんてゆっくり決めれば良いか」と後回しにしがちです。

ただ、共有名義不動産の売却は簡単ではありませんし、売却手続きを進めるにも名義人全員の同意が不可欠であることは上述の通り。したがって、離婚が成立するまでにマイホームの処分方法を決めてしまった方が、今後の人生を建設的に歩めるでしょう。

なお、離婚時の共有名義不動産をめぐるトラブル・売却手続きの進め方などについては、以下のリンク先で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。

離婚した時に共有名義不動産はどうするべき?共有持分だけを処分する方法まで解説

離婚した時に共有名義不動産はどうするべき?共有持分だけを処分する方法まで解説

2021年12月14日

共有名義不動産売却時の注意点2:相続の場合

親が死亡するタイミングで子ども・兄弟姉妹などの複数名の法定相続人が家族間で不動産を相続することがあります。

もちろん、全員がひとつの不動産を共有すること自体も間違いではありません。公平感を重視して全員がそれぞれ法定相続分にしたがって共有持分を取得して共有者として登記手続きを踏むのもひとつの相続方法でしょう。ただし、この場合では全員がそれぞれの相続分割合にしたがって相続税を負担しなければいけない点に注意が必要です。

もっとも、長期的な視点で考えたとき、親・子ども・兄弟姉妹などの間で共有状態が発生するのはおすすめできる方法ではありません。なぜなら、やがて共有者の誰かが死亡した場合にはふたたび相続人が登場することになるので、「たった一軒の空き家の共有者が何十人にも増えて売却処分などが一切できなくなってしまう」という不合意な状態になりかねないからです。実際、登記手続きを怠ったために土地・建物の権利関係が複雑になって前途多難な状態になっている不動産数は増加傾向にあり、社会問題化しています。

そこで、相続によって不動産を複数人が取得する場合には、次の注意点をご参照のうえ、適切な手続きをご検討ください。

相続が発生する前に不動産の処分方法を決めておく
被相続人が存命中に不動産の処分方法を決めておけば遺産分割協議はスムーズに進みます。また、遺言によって譲受人を指定するのも良いでしょう。故人の遺志を反映できる最適な選択肢です。
相続放棄でトラブルから離脱する
すべての相続人には「相続放棄」という選択肢が与えられています。相続する財産・相続放棄をする財産を自分で選ぶことはできない点がデメリットですが、共有名義不動産の処分をめぐる家族間のトラブルから距離をとることができる点がメリットです。

共有名義不動産売却時の注意点3:名義人が所在不明の場合

共有名義不動産の共有者のなかに所在不明者がいる場合には売却手続きが難航するリスクが高いでしょう。なぜなら、行方不明の人物が共有者として名を連ねていたとしても、登記簿上の所有者である以上は、どこに居るか分からない・生きているかも分からない共有者の合意がなければ売却手続きを進められないからです。

もちろん、この状況でもご自身の共有持分だけを買取業者に売り渡すことは可能ですが、「高値で売却したい」という希望を叶えるために、共有者全員の合意を前提として市場相場通りの売却を目指すのも間違いではありません。

そのためには、次のような方法で行方不明の共有者の所在を探す、行方不明者が原因で困難におちいっている人たちを救済するための法制度を活用するという選択肢をご検討ください。

登記簿・住民票・戸籍を調査する
同一不動産の共有名義人であれば各情報開示手続きを利用できます。ただし、すでに転居している場合には除票に基づき追跡調査が必要ですし、死亡が判明した場合には推定相続人の所在を探らなければいけないなど、かなりの負担が発生する点に注意が必要です。所在が判明しても音信不通・売却手続きなどに積極的に参加してもらえないなどのリスクがあります。
不在者財産管理人制度を活用する
行方不明者に代わって財産の管理処分権を有する不在者財産管理人を選任することによって売却処分等が可能に。ただし、裁判所における手続きに時間・費用が発生します。
失踪宣告制度を利用する
普通失踪・特別失踪という制度を活用して、所在不明者を死亡したと取り扱うもの。これによって、所在不明者の相続人に売却手続きへの参加を促せば共有名義不動産の処遇を決することができます。ただし、不在者財産管理人制度と同じように、裁判所における手続き・費用の負担を避けられません。

なお、不動産の共有者のなかに行方不明者がいる場合の対処法については、以下のリンク先で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。

不動産の共有者が行方不明の場合はどうする?トラブルを回避して売却するための対処方法を解説

不動産の共有者が行方不明の場合はどうする?トラブルを回避して売却するための対処方法を解説

2021年11月8日

共有名義不動産売却時の注意点4:共有者同士で処分方法の合意がまとまらない場合

「せっかくの資産を手放したくない」「使い道がないのなら売却してしまえば良い」「その不動産仲介業者は嫌だ」などというように、共有者全員で話し合いを進めても合意が形成されないという場合は少なくありません。

もちろん、共有持分を売却すれば共有関係をめぐる紛争から離脱できますが、いろいろな事情から自分だけトラブルから抜け出すのが難しいという場合もあるでしょう。

このように、共有者全員の合意に基づいて第三者への売却を実現したいのに話がまとまらない場合には、合意の形成を促すようなコツを押さえて交渉を進めるのがポイントです。たとえば、次のような方法をご検討ください。

不動産を所有しつづけるリスクを伝える
不動産をめぐるトラブルが発生した場合、所有者・管理者は民事責任・刑事責任・行政責任を問われるリスクがあります。共有名義状態で使い道のない不動産を所有しつづけるだけで常にリスクと隣り合わせであることを提示すれば、売却に向けた交渉はまとまりやすいでしょう。
不動産を所有するだけで発生するコストを伝える
固定資産税・公共料金の基本料金・火災保険料・管理費用・メンテナンス費用など、不動産は現状を維持するだけでも毎月・毎年かなりの費用負担が発生するもの。売却を先延ばしにするほど共有者全員で負担しなければいけない金額が高額になることを伝えて、第三者への売却に前向きにさせられます。
共有持分だけを売却するデメリットを伝える
共有者間で話し合いが進まない状態だと誰かが共有持分だけを業者に売り渡す可能性があることを指摘。すると、見ず知らずの不動産業者が共有関係に入ってくることによって交渉や処分方法を決めるのが難しくなることが予見されるため、売却活動に向けた合意形成に繋がりやすくなります。
不動産仲介業者への依頼によって高額成約の可能性があることを伝える
不動産仲介業者の営業担当者からの話や不動産一括査定サイトの情報などを根拠に、成約によって手元に入ってくる具体的な金額のイメージを伝えるのもポイント。共有者間で話がまとまらない場合は非効率的な「現状維持」志向が原因の可能性もあるので、「売却をすればいくらのお金が入ってくるよ」という話で前向きな姿勢を作り出せます。

共有名義不動産はトラブルに発展する前に売却しよう

不動産を共有状態で所有しつづけるのはリスクが高いです。共有者が結婚・出産・死亡するにつれて法律関係は複雑になるだけなので、「放っておいて状況が楽になること」を期待するのは現実逃避でしかありません。

全員で話し合いができる状況なら共同名義不動産の状態のまま売却活動を進めることは可能ですし、もし共有者間での話し合いが難航するようならば共有持分権だけを買取業者に売却することもできます。

大切なのは、「できるだけ早いタイミングで不動産の共有関係を解消する」という意識をもつことです。トラブルに発生する前に具体的な方法に着手しましょう。

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ABOUTこの記事をかいた人

30代、フリーランスライター・翻訳家。マイホーム購入のタイミングで不動産に興味をもつ。現在は関西の山奥で田舎暮らしを満喫しながら、めぼしい中古物件をリサーチする毎日。不動産関連の知識を深めながら、国内外問わず良い物件との出会いを待ち望んでいます。