不動産を共有状態で所有する事は決して珍しくありません。住宅ローンを通す為に夫婦の共有名義でマンションや戸建を購入したり、複数人の相続人で不動産を共有状態で相続するなど、実は結構な数の不動産が共有状態になっています。
しかし、そんな共有状態で所有した不動産では、多くのトラブルが発生します。
- 夫婦の共有名義でマンションを購入後、離婚しても共有状態のまま。
- 両親が亡くなって兄弟で実家を相続したけれど、実家には兄だけが住み続けている。
複数人で共有している不動産なのに、実際に不動産を利用しているのは一人だけ・・・というケースを想像すると、トラブルが起きそうな理由が分かるのではないでしょうか?そもそも共有名義で不動産を持っているのですから、共有者だって住む権利はあるはずですし、固定資産税も共有者にも課せられてしまうのですから。
日本ではこんな共有名義不動産のトラブルが後を絶ちません。そんな時、法の下に紛争解決を手助けしてくれるのが「共有物分割請求訴訟」です。
「訴訟」というくらいですから、裁判や法律問題が深くかかわってくる為、なかなか法律に触れない一般の人達には理解するのが難しい分野ではあります。ここでは「共有名義不動産を専門的に扱っている業者」に勤めている筆者が、共有物分割請求訴訟を素人にも分かりやすく解説していきます。
共有物分割請求訴訟って何?
では、詳しく「共有物分割請求訴訟」について解説していきましょう。
「共有物分割請求訴訟」とは、読んで字の如し「共有物の分割を請求する訴訟」です。(ほとんどのケースで不動産に関する事ですが、自動車や船などを共有状態で所有していた場合にも同じ訴訟を提起する事が可能です。)
分割というのはそのままの意味で、土地だったら分筆して分け合ったり、全てを売却して金銭で分割したり、その土地をそのまま欲しい人が共有者の分の土地の評価額を現金で支払うなどして分割する事を指しています。
共有状態を解消する為には、共有者全員が納得していなければならない為、話し合いが必須であり、簡単に解決出来るような手続き等はありません。
共有物分割請求訴訟が起きる典型例
そんな、共有物分割請求訴訟ですが、実際にはどんな時に訴訟が起きるのでしょうか?典型例を解説していきましょう。
夫婦で購入した住宅を財産分与せずに離婚した場合
夫婦でマンションや戸建を購入する際、住宅ローンの審査に通りやすくする為に、共有状態で購入するのは良くある事です。購入時点で離婚を視野に入れている夫婦はいませんからね。
さて、離婚をする場合、財産分与請求をするかどうかは夫婦の自由ですので、共有名義状態のまま夫もしくは妻が住み続けている事を了承し、離婚を成立させる事も可能です。しかし、共有名義を放棄しない限り、訴訟を起こす権利は有していることになります。
喧嘩別れでもなく、生活のすれ違いで自然消滅に近い形で離婚に至り、財産分与をせずに離婚を成立させたが、離婚後数年後に元夫(妻)が共有物分割請求訴訟を起こしてきたというケースは結構あるんですね。離婚調停するにも弁護士費用がかかったり、調停が終わるまでに1年近くの期間をかけたりする事もあるので、それを避けてしまう人も多いです。
複数の相続人で物件を共有状態で相続した場合
共有名義不動産トラブルで最も多いのが、この「相続」です。ホントに多いです。
相続はほとんどのケースで相続人が複数いるので、不動産の共有者がどんどん増えていってしまうのが一番厄介なんです。
もう少し分かりやすく解説しましょう。
1.父が亡くなって実家を相続する場合、共有持分割合は母(1/2)、長男(1/4)、次男(1/4)
2.長男が既婚者で事故などで亡くなった場合、長男の共有持分(1/4)を長男嫁(2/3)、母(1/3)で相続する
この場合、父が残した実家の共有持分割合は、母(7/12)、兄嫁(1/6)、弟(1/4)となります。
数字が複雑で難しいと思いますが、状況も複雑になるなというのは想像で何とか分かるのではないでしょうか。
そうなんです。これは簡単な例で出していますが、実際の相続はこれよりも多くの相続人が出てくる可能性の方が高いので、もっともっと複雑になるんです。
上記の例で出している場合でいくと、おそらくこのケースでは母親が住み続ける事になると思いますが、兄嫁からしたら共有持分を所有しているのに、全く意味のない持分になってしまいます。こうなってしまったら、おそらくほとんど交流も取らない可能性が高いので、そうなると共有物分割請求訴訟を起こして、自分の持分相当を分割して請求する事が出来るんです。
もしも実家の土地と建物の評価額が1億円近いとすると、(1/6)でも約1600万くらいの価値がある事になるのに、住む事も出来ないのであれば分割請求を起こしたくなる気持ちも分かりますよね。
不動産の共有者を調べる方法ってある?
上述した通り、不動産は代々相続していくにつれて、相続人がどんどん増えていき、所有者を全て把握するのが難しくなっていきます。中には相続人が10人を超える不動産っていうのも良くあるんですね。
となると、「今自分が所有している共有持分は誰と共有している不動産なのかが分からない」というケースが起きうるのです。そんな時、不動産の共有者を調べる方法があるのですが、それは当該不動産の登記簿謄本を(登記事項証明書)取得したら良いのです。
登記簿謄本には基本情報として「所在地・地番・家屋番号・構造・床面積」などが書かれているのですが、中盤の「権利部(甲区)」という欄に「所有権に関する事項」があり、そこに不動産の所有権を所持している者の名前と住所が明記されています。
そこを見れば、誰が持分移転登記をしたのか?どんな登記原因で共有物になったのか?などが書かれています。
不動産の登記簿謄本はどこで取得するのか?と言いますと、最寄りの法務局で全国どこの土地でも物件でも取得する事が可能です。

不動産の登記簿謄本は誰でも取得する事が可能です。という事は・・・、その不動産をどこの誰が買ったのか?は登記簿を追っていけば分かってしまうんです。
共有物分割請求訴訟を起こすとどんな結果になる?
では、実際に共有物分割請求訴訟を起こすとどんな結果になるのでしょうか?
原則、共有者全てが納得する形で分割出来るのが理想ですので、まずは話し合いでの和解を目指します。その上で、話し合いがまとまらずに和解に至らなかった場合、裁判所が最終的に判決によって分割方法を決定します。
現物分割
まず、一番オーソドックスな分割方法が「現物分割」です。共有物が物理的な意味で分割出来るのであれば、そうした方が良いのは当然分かりますよね。(二人でケーキを購入したのであれば、二等分すれば良いだけですからね)
不動産の場合で言うと、現物分割がしやすいのは土地です。更地状態の土地であれば、二等分、三等分などに分筆した上で、それぞれ登記しなおせば良いですよね。
しかし、土地の分筆で問題になってくるのは、同じ場所にある土地でも、分筆する事で土地の価値が変わってしまうケースです。
- 隣にビルやマンションが建っている場合、日当たりが悪い土地と良い土地が出来る
- 大通りに面している土地と狭い道にしか面していない土地
- 川や湖に近い土地と遠い土地
現物分割の場合、土地の価値が変わらず平等に分割出来る場合に選ばれます。
土地以外の戸建やマンション等の不動産は現物分割がしにくいので、他の分割方法が選択されやすくなります。
価格賠償
価格賠償は持分を取得する者が金銭を支払う事を指します。この価格賠償には「部分的価格賠償」と「全面的価格賠償」の2種類があります。
部分的価格賠償とは?
現物分割の説明で触れた通り、土地を同じ面積で分筆したとしても、それぞれの土地の価値が全く同じになるとは言えません。
その際に、価値の高い土地を取得する者が、価値の低い土地を取得する者に対して、持分価格の過不足分を金銭の賠償によって清算する事を「部分的価格賠償」と言います。
全面的価格賠償とは?
一方で、全面的価格賠償は、不動産を現物分割するのではなく、特定の者が他の共有者の持分を価値に等しい分の金銭で賠償し、全てを取得する事を言います。
共有不動産の価値を下げる事なく、そのままの状態で共有状態を解消出来るという大きなメリットがあるのですが、「全ての共有持分を取得するだけの財力がある者」が存在しないとこの選択肢が取れないというデメリットもあります。
共有者が複数人いる不動産よりも、単独所有の不動産にする事が大前提の訴訟ですので、片方に財力がある場合は全面的価格賠償での和解を優先的に進めるケースは多いです。
代金分割
現物分割が出来ず、価格賠償を出来る資力がなかった場合は、最後の手段として「代金分割」が選ばれます。代金分割とは、裁判所が共有物の競売を命じて、その売却金額を共有持分の割合に沿って分割する方法です。
競売とは、自己破産など、強制的に換価処分する際に行われるもので、期間が限られている事や、入札制である事などから、一般的な不動産の相場価格よりもやや安価で売却される可能性が高いものになります。そこに至ってしまうと、共有者全員にとって良い結果にならないので、話し合いで和解に落ち着くか、現物分割・価格賠償のどちらで決着をつく事がほとんどです。
共有物分割請求訴訟は弁護士に依頼するべきなのか?
さて、共有物分割請求訴訟の概要は上記まででざっくりとは理解出来たかと思います。そんな共有物分割請求訴訟ですが、弁護士に依頼するべきなのか否か?迷う所ではないでしょうか。
相手がそれなりに関係性の深い相手なのであれば、話し合いで終わる事もあると思いますが、この記事を読み込んでいる時点で話し合いでは解決しない状況なのかなと推察出来ます。そうであれば、ほとんどの場合で弁護士を入れない限り解決する事が出来ません。
お金の問題で揉めがちな遺産分割協議を考えてみても、法律の素人だけで話し合っても感情論が先行していつになっても結論が見えてこない事の方が多いですからね。
弁護士に依頼した場合、弁護士費用はどれくらい?
では、弁護士に共有物分割請求訴訟を依頼した場合、弁護士費用はどれくらいになるのでしょうか?法律事務所によって弁護士費用には若干の差があるものの、共有物分割請求訴訟に関してはほぼほぼ同じような金額帯になっておりました。
ここでは、ネットで探せる「共有物分割請求訴訟」を専門的に扱っている法律事務所をピックアップ(※)して平均を出してみたのですが、
- 共有物に関する法律相談:大体初回は無料
- 任意交渉の場合:着手金20万円+経済的利益の5%~10%
- 訴訟提起が必要な場合:着手金30万円+経済的利益の5%~10%
そこそこにお金がかかりますので、不動産価値が低い物件、もしくは持分割合が極端に低い場合は弁護士に依頼してもマイナスになってしまう可能性はあるでしょう。
不動産問題に強い弁護士はどうやって探す?
ざっくりの弁護士費用が分かった所で、すぐにお近くの法律事務所に向かうのはちょっと待ってください。
弁護士が出来る業務範囲は非常に広いので、弁護士はある程度自分の得意分野を積極的に扱う傾向にあります。民事裁判ばかりやっている人もいれば、刑事事件ばかりやる人もいますし、交通事故問題ばかり扱っている人もいれば、相続問題ばかり扱っている人もいます。
ですので、共有物分割請求をお願いしたいのであれば、「不動産問題に詳しい弁護士(相続も詳しいと尚良し)」にお願いするのがベストです。不動産問題は他の法律問題よりも複雑な権利関係の争いが絡むので、全く同じような判決や判例が少なく、弁護士によって回答が分かれる事も多々あるくらいですから。
では、不動産問題に強い弁護士はどこで探せば良いのか?というと、弁護士検索ポータル最大手の「弁護士ドットコム」が良いでしょう。弁護士ドットコムページ内に「不動産・建築を扱う弁護士を検索」というページがありますので、ここでお近くの弁護士を探すのが無難です。
共有持分は共有者の許可なく売却出来る
ここからはちょっとした余談になります。
土地や建物を売却する為には、共有者全員の同意がなければ売却する事が出来ないと民法第251条に規定されていますが、これは当該不動産を全て売却する場合です。
しかし、共有持分だけに限定して考えると、共有者が単独で売却出来る権利がありますので、共有者の同意なく売却したり譲渡する事が可能なんです。
共有持分専門で買い取っている業者がいる
共有持分だけを買い取っても、確かに先に占有している人を追い出したり住む事は出来ません。となると、居住目的で購入する事は出来ないので、誰も購入しないんじゃないの?と思うかもしれませんが、「共有持分を専門的に買い取っている不動産業者」が存在します。
不動産業者は買い取ってどうするのか?というと、
多くの場合で上記2パターンです。
つまり、共有持分権者は所有権をお金に換えたい訳ですが、買取交渉を行うのも、共有物分割請求訴訟を提起するのも、時間とお金を使い、精神的な消耗をしなければならない訳です。それを代わりに買取業者がやるという事です。
中には外国人投資家に共有持分を売っている業者もあるみたいですね。

身内に買取交渉をする事なんてほとんどの人が出来ないでしょうし、身内相手に裁判を起こすなんてもってのほかです。買取業者に共有持分を売却する場合は、すぐに現金化出来るのが大きなメリットでしょう。
まとめ
さて、今回は共有物分割請求訴訟について詳しく解説してみました。
結論として言いたい事は、不動産だろうが高級車だろうが、「共有名義で購入せずに単独名義で購入した方が圧倒的に良い」という事です。もちろん、経済的に難しいケースが多いから共有名義で購入する事になるのですが、人生何が起きるかは本当に分かりません。一生愛する自信が合って結婚しても、相手が一生愛してくれるかは分からないのです・・・。
こんな悲しい結末になってしまって申し訳ないのですが、金銭的な理由で訴訟を起こしたり、起こされるのは決して気持ち良い事ではありません。それがきっかけで絶縁状態になる事だって多いです。
お金というのは恐ろしいもので、それが理由で絶縁してしまうのは本当に悲しい事ですので、そうならないように不動産を購入する前は先の先までよーく考えて購入するようにしてくださいね。
残念な事に、日本では離婚件数が年間約20万件(※)もあるので、こういった不動産の共有トラブルの相談は非常に多いんです。財産分与をしたいが、マンションの残債が多くて離婚時にマンションを売却出来ず、共有名義で持ち続ける事を仕方なく了承するという人もいるっていうのもありますね。
※参照:人口・世帯(出生・死亡数と婚姻・離婚件数) – 統計局ホームページ