親名義の不動産を売却する方法はある?状況別に必要な手続きや売却の流れを解説します

親名義の不動産を売却する方法はある?状況別に必要な手続きや売却の流れを解説します

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親が亡くなって相続が発生したり、親の認知症が進んだりしたタイミングで、親の財産の処分方法などについて考える機会が増えることでしょう。その際、特に丁寧な対応が求められるのが”親名義の不動産”です。

そもそも、自宅(戸建て・マンション)・土地といった不動産は思いついたときに簡単に売却できるものではありません

たとえば、市場における適正な価値で売却を実現するために工夫を凝らしたり、また、登記移転手続きなどの労力・コストも考慮する必要があります。いい加減に売却手続きを進めてしまうと、廉価で買い叩かれたり、そもそも成約が実現しないリスクさえ生じるでしょう。

そして、親と子どもはあくまでも”別人格”です。そのため、通常の不動産売却手続きで求められる以上に注意を払う必要があります。

そこで今回は、親名義の不動産を売却する方法・手続きの流れ等について、具体的な状況別に詳しく解説します。また、売却が成立した場合の税金面の注意点にも触れるので、最後まで参考にしてください。

洸太郎
洸太郎

親名義の不動産を売却する際には法律問題が発生することが少なくありません。素人が迂闊に手続きに手を出してしまうと、時間・労力の負担が重くなるばかりではなく、間違った形で手続きを進めたことが原因で後から紛争トラブルに巻き込まれることにもなりかねないので、弁護士・司法書士などの専門家・行政の相談窓口などへ事前に相談することを強くおすすめします。

目次

親名義の不動産を売却する方法・手続きを状況別に4つ紹介

そもそも、登記名義人本人が不動産を売却するだけでも手間がかかるもの。不動産という”資産価値ある財物”を売却する以上は仕方のないことです。

つまり、子どもなどが親名義の不動産を売却するためには、クリアすべき手続きや問題点が少なくないということ。

そこで、「親名義の不動産売却」が問題となる代表的な4つの場面について手続き上の注意点などを含めて詳しくご紹介します。

  1. 怪我・病気などが理由で自分で不動産売却できない親を代理したい
  2. 認知症・植物状態などが理由で自分で不動産売却できない親の代わりに処分したい
  3. 親の死亡をきっかけに相続した親名義の不動産を売却したい
  4. 親名義の不動産を売却して代金を子どもに贈与したい

それでは、それぞれの場面について確認していきましょう。

怪我などで動けない親名義の不動産を代理して売却する方法

親が年齢を重ねてくると、意思能力・事理弁識能力には一切問題がないとはしても、遠方への居住・仕事・施設への入居・怪我・病気などが原因で自分で不動産の売却ができないということもあるでしょう。

このような場合には、“代理(任意代理)”という制度を活用すれば子どもが親名義の不動産を売却することが可能です。

不動産という価値の高い財産を売却する際には、「子どもだから」という理由だけでどのようなことも代わりにできるわけではありません。異なる法的主体に権限を与えるものである以上、適切な流れ・注意事項を踏まえる必要があります。

それでは、代理(任意代理)によって親名義の不動産を売却する方法について詳しく見ていきましょう。

任意代理(委任代理)とは

代理制度とは、本人から権限を与えられた代理人が、本人の代わりになって本人のために与えられた権限の範囲内の意思表示・法律行為をする制度です(民法第99条)。代理人によって行われた法律行為の効果は代理人ではなく本人に帰属することになります。

親名義の不動産売却を子どもが代理して行うと、売買契約や値段交渉などの代理行為を実際に行うのは子どもである代理人ですが、あくまでも法律上の契約当事者は「不動産所有者である親」ということ。売買代金の帰属先も親という形で扱われます。

法定代理と任意代理の違い

一般的に”代理”と表現するときは任意代理を意味することが多いですが、実は代理制度は”法定代理”・”任意代理”の2つに分類できます。

法定代理とは、法律上の規定・裁判所からの選任を根拠として代理権限が発生する代理のことです。たとえば、未成年者に対して親権者が有する代理権限、後述する成年後見制度によって発生する代理権限などがこれに当たります。

これに対して、任意代理とは、本人が本人の意思に基づいて代理人に法律行為等を行う権限を与える代理のことです。つまり、どのような行為について代理権限を与えるのかを本人自身が自由に決定できるので、任意代理の代理権の範囲はケースバイケースで異なることになります。

そして、親の事理弁識能力等に問題がない場合には、法律上の規定等を根拠にして代理権が発生することはありません。

したがって、このケースにおいては、任意代理制度を活用して、不動産所有者である親本人が子どもに代理権を授与して、不動産売却手続き等を進めることになります。

代理と使者の違い

代理と似た概念に”使者”があります。使者とは、本人によって完成された意思表示を伝える役割を担う者のことを指します。

つまり、代理の場合には、与えられた権限の範囲内で代理人自身が自由に意思決定をすることができますが、使者の場合には、本人によってなされた意思決定を伝達することしか許されないというわけです。

たとえば、親名義の不動産を売却するときには、買主側と値段について交渉しなければいけない場面も出てくるでしょう。しかし、使者はあくまでも本人の意思表示をそのまま伝達するだけの存在です。代理人自身の判断で値引き交渉に応じることは許されません。

したがって、親名義の不動産売却を子どもが行う場合には、”使者”では不十分で、”代理人”としての資格を要することになります。

洸太郎
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たとえば、親が子どもに晩御飯のカレーの具材を書いたメモ・お金を渡してお使いに行かせた場合、この子どもは”使者”です。使者は自ら意思表示等をする必要がないので子どもでも務まります。これに対して、代理人は自ら意思決定をしなければいけないので、行為能力が認められない子どもには代理人資格が認められません。つまり、不動産売却のように高度・複雑な判断が求められるケースでは、代理人自身に一定の行為能力が必要だと考えられます。

代理の要件

それでは、代理人として子どもが親名義の不動産売却をする際に必要な要件について見ていきましょう。

「私が代理人です」と相手方に言うだけでは不十分。なぜなら、万が一代理人が嘘をついていた場合、買主・不動産所有者などが損害を被るおそれがあるからです。

そこで、代理人が不動産売却をする際には、利害関係者が不測の不利益を被らないために次の要件・手続きが求められます。

  1. 委任状
  2. 添付書類
  3. 顕名による意思表示
  4. 本人の意思確認

それでは、各要件・手続きについて詳しく見ていきましょう。

委任状の作成

任意代理によって不動産売却を行うときには、「代理権の授与・代理権限の範囲が明確にされた委任状」の交付がかならず求められます。なぜなら、委任状がなければ、代理人を名乗る人物が本当に本人から代理権を授与されたか(=代理権限を有するか)を証明できないからです。

委任状のフォーマットはどのようなものでも問題ありませんが、不動産売却における委任状では一般的には次の事項が記載されます。なお、不動産業者などに売却について相談すれば委任状の雛型を用意してくれるのでご利用ください。

代理人(受任者)の住所・氏名
誰が代理人かを明確にする趣旨
「不動産売買契約及び交渉の権限を代理人に委任する」という趣旨の文言
代理権限が与えられていることを明確にする趣旨
売却対象である不動産を特定する情報
土地について:所在地情報、地番、地目、地積などの登記情報
建物について:所在地情報、家屋番号、種類、構造、床面積などの登記情報
委任状において与えられる権限の範囲
委任の範囲はできるだけ具体的な内容が求められる。売却希望価格の範囲・引き渡し期日・手付金・違約金などの契約条件について、できるだけ抽象的な表現は避けるのが一般的(代理人に交渉権を認めるとしても交渉幅を明示する)。抽象的な委任内容になると”白紙委任”に近い形になるので、本人・第三者の信頼を裏切るリスクがある。
委任状の形式要件
委任状の有効期限・委任状を発行した日付・委任者及び受任者の署名・押印(実印にて)など

特に重要なのが、実印を使用するという点です。この点、公正な委任状と認められるためにはかならずしも実印で押印する必要はありません。たとえば、シャチハタなどの三文判を利用しても委任状の有効性は認められます。

もっとも、不動産売却は高額なお金、資産価値の権利移転を伴う取引です。つまり、印鑑登録を済ませた実印を使用した方が買主側の信頼を確保できるというメリットが得られます。

したがって、特に不動産売却において委任状を作成する際には、かならず実印を利用しましょう。実印をもっていない方は、委任状作成前に市役所にて事前に印鑑登録を済ませておくのがおすすめです。

洸太郎
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ほかにも、住宅ローンの残債がある親名義の物件を売却するときには、買主への所有権移転登記手続きと同時に金融機関名義の抵当権抹消登記も行う必要があります。必要な事務手続きを子どもへの委任内容に適切に盛りこみましょう。

添付書類を用意する

親名義の不動産を子どもが代理人として売却する際には、委任状に加えて添付書類を用意しなければいけません。

不動産売却において求められる添付書類は次の通りです。委任者側・受任者側双方について添付書類が必要である点にご注意ください。

委任者(親)側の添付書類
印鑑登録証明書・住民票の写し・登記事項証明書等(3カ月以内に発行したもの)
受任者(子ども)側の添付書類
印鑑登録証明書・運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証明書等

このように、代理人が不動産売却をする際には、各種添付書類が求められます。

したがって、事前に市役所などに足を運んでスムーズに手続きを進められるようにしておきましょう。

顕名による意思表示

顕名とは、代理人が「本人のために代理権限を行使すること」を相手方に示すことです(民法第100条)。不動産売却の際、自身が本人の代理人であることを示さなければ、当該法律行為の有効性に問題が生じる可能性があります。

もっとも、顕名の有無は取引の流れなどを総合的に考慮して判断されるもの。仮に売買契約書に「〇〇の代理人△△」という記載をし忘れたとしても、しっかりと委任状を提示しているなど、前後の流れから代理人であることが明らかな場合には、売買契約は有効であると取り扱われます。

資産価値の高い不動産売却では本人の意思確認が行われるのが一般的

ここまで紹介した流れを踏めば代理は認められますが、親名義の不動産売却を代理によって行う場合には、別途本人確認が行われることが多いのが一般的です。

なぜなら、不動産は資産価値が高い財物。権限のない代理人が勝手に不動産を処分してしまうと(これを”無権代理”と言います)、不動産名義人が自分の財産を失うリスク・取引相手が売却代金相当額をだまし取られるリスクが発生するからです。

したがって、不動産売却を代理で行う際には、安全な取引を確保するために、かならず名義人である親本人の意思確認が行われることになります。「わざわざ代理人をたてたのに本人に連絡がいくのは煩わしい」と思われるかもしれませんが、資産価値の高い財物の取引であるという特殊性を有する以上は仕方のないことだとご理解ください。

認知症になった親名義の不動産を売却する方法

認知症・植物状態など、不動産を所有している親が自分自身の判断で売却手続きを行うことができない場合には、子どもなどが代わりに取引を行うしかありません。たとえば、親が認知症の場合、騙されて土地・建物の権利を手放してしまうリスクもあり得る話なので、すみやかな対処が求められます。

ただし、認知症・植物状態の親の代わりに不動産売却をする際には、上述の”任意代理”制度を活用することはできません。なぜなら、任意代理では親と子どもとの間で法的有効性が認められる委任契約を締結する必要がありますが、認知症等が原因で法的判断能力が充分ではない(満足な意思疎通ができない)親との間では代理権授与のための委任契約を締結することができないからです。

そこで、親の行為能力に問題がある場合には、次の3つの制度を活用して、子どもが親名義の不動産売却を代わりに行うことになります。

  1. 法定後見制度
  2. 任意後見制度
  3. 家族信託制度

それでは、各制度について詳しく見ていきましょう。

洸太郎
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たとえば、認知症の症状レベルには個人差があります。しかし、「症状が軽度だから親本人に不動産売却手続きをさせても問題ない」ということにはなりません。なぜなら、不動産取引は手続きが複雑で、取引で動く財産の価額も大きいからです。これらの人たちをトラブルから保護する法制度はしっかりと用意されているので、かならず参考にしてください。

親が認知症になっているなら法定後見制度

法定後見制度とは、民法上の制限行為能力者の社会活動をサポートするための制度のことです。障がいを抱える人や認知症などを患っている人は判断能力が不十分なため、自分ひとりでは社会活動をすることができません。それを保護・支援するために用意されているのが法定後見制度です。

もっとも、障がいの程度や認知症の進行具合は人によって異なるもの。どこまでは本人がひとりで法律行為をできて、どこからの支援が必要なのかは、個別具体的に考えなければいけません。

そこで、民法上定められている法定後見制度は、保護・支援の程度に応じて次の3種類に区別できます。

成年後見人・成年被後見人
判断能力を欠いているのが通常の人を”成年被後見人”とし、”成年後見人”が幅広い代理権・同意権・取消権を有する制度。認知症の進行が重度の人が対象。家庭裁判所の後見開始の審判を受けた成年被後見人は、日用品の購入などしか単独で法律行為ができない。不動産売却は成年後見人がかならず代理して行う。
保佐人・被保佐人
判断能力を著しく欠いている人を”被保佐人”とし、”保佐人”は裁判所から許可された範囲の代理権・民法第13条1項所定の行為(借金、相続の承認・放棄など)の同意権・取消権を有する。被保佐人が不動産売却をするためには保佐人の同意が必要
補助人・被補助人
判断能力が不十分な人を”被補助人”とし、”補助人”が一定範囲で代理権・同意権・取消権を有するが、原則として本人がひとりで法律行為が可能。もっとも、不動産売却について補助人の同意が必要との審判がある場合、補助人に代理権を付与する旨の審判がある場合には、保護・支援が必要になる。

参照:法定後見制度(東京弁護士会HP)

親の認知症を理由に法定後見制度を利用する場合には家庭裁判所の審判を受ける必要がありますが、その際に重要視されるの”医師の判断”です。

たとえば、会話の受け答えの流れ・自分の名前を筆記できるのか・物忘れの程度などの事情を総合的に考慮して、どの程度の制限行為能力が認められるかが決まります。

法定後見制度の利用を申し立てる際には、財産目録や同意書などの添付書類とあわせて申立書を裁判所に提出しなければいけません。必要書類等については各家庭裁判所にて説明を受けられるので、お近くの管轄裁判所までお問い合わせください。

参照:成年後見等の申立てに必要な書類等について(裁判所HP)

洸太郎
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ただし、法定後見制度を利用する場合、子どもが成年後見人等に選ばれるのは例外的な場合のみ。なぜなら、親と子どもには一定の利害関係があるケースがあり、そのような場合に子どもを後見人等に選任してしまうと親の財産が不当に侵害されるリスクがあるからです。一般的には、第三者である弁護士・司法書士等が後見人等に選任されることになるので、親名義の不動産売却を希望する場合には彼らとしっかりとコミュニケーションをとるようにしてください。

親が認知症になる前なら任意後見制度

任意後見制度とは、親の判断能力が充分ある間に、将来認知症・脳梗塞などが原因で単独で法律行為ができなくなった場合に備えて、事前に当事者間で世話をする人・方法などについて取り決めをしておくことを意味します。

法定後見制度を利用するとなると、裁判所における手続きが面倒だったり、原則として子ども・家族が後見人等に選任されなかったりと、どうしても一般の方の感覚からするとスムーズには進みません。

その一方で、親の判断能力が充分に認められる状態で将来に備える任意後見制度では、当事者間の契約によって比較的柔軟に内容を定められるので、”世話をされる側”の親の意向を反映しやすいというメリットが得られます。

任意後見制度のメリット
・支援者(任意後見人)を自分で決定できる
・どのような形で支援されたいかを自分で決められる
・裁判所が選任した任意後見監督人によるチェック体制を整備できる
任意後見制度のデメリット
・死後業務や死亡後の財産管理業務を対象にできない
・法定後見制度で認められる取消権が存在しない
・健康なうちに任意後見制度について前向きになりにくい

任意後見制度の利用を希望する場合には、公正証書で任意後見契約を締結し、法務局にて登記を行います。そして、実際に判断能力に衰えを感じ、任意後見制度の利用をスタートさせたいときに裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人の選任をもって任意後見制度がスタートするという流れです。

参照:制度の概要・手続の流れ(任意後見)(裁判所HP)

家族信託制度なら柔軟な財産管理を実現できる

家族信託制度とは、”信託財産”という枠組みを使って、従来の後見制度よりも柔軟な財産の管理・処分を実現する手法のことです。

法定後見制度・任意後見制度のいずれを利用するとしても厳格なルールに縛られるというデメリットがあります。たとえば、家庭裁判所への報告義務や監督者からのチェックなど、責められるような運用をしていなくても負担に感じる場面は少なくはないでしょう。

これに対して、家族信託制度を活用すれば、任せたい財産だけを信託財産として切り分けて受託者(子ども)に管理処分を任せられるので、任意後見制度よりも委託者(親)の意思を反映させやすいというメリットが得られます。

たとえば、「親が認知症になったときに親名義の不動産を子どもが売却する」という条件で信託契約を締結しておけば、子どもが親名義の不動産売却を実行にうつすときに後見制度のプロセスを経る必要はなくなります。

もちろん、第三者からのチェック体制が及ばないという意味において親側からすると不安を感じることもあるかもしれません(たとえば、信託契約を締結した時点で当該財産の名義人は受託者側に移転するなど)が、将来の紛争回避に役立つなど、メリット面がかなり大きい仕組みになっているので、柔軟な手続き等を希望される方はぜひご検討ください。

家族信託制度のメリット
・成年後見制度よりも負担が少ない
・親自身の体調・判断能力のレベルに関係なく信託財産をいつでも処分できる
・相続税対策など、親本人のメリットとは言えない管理方法も可能
・将来の法的トラブル(遺産の共有の問題など)を回避できる
家族信託制度のデメリット
・受託者への監督体制を作りにくい
・身上監護権(医療や介護などの契約を代理する権限)は対応外
・節税効果が認められない
洸太郎
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任意後見制度と同じように、家族信託制度を活用するには、親の判断能力が充分なうちに信託契約を締結しておく必要があります。家族・子ども世代のために、どのような形なら労力をかけずに財産処分等を実現しやすいのかを事前に話し合っておきましょう。

相続で取得した親名義の不動産を売却する方法

親が死亡した場合、遺言や法定相続などによって相続人に財産が承継されます。不動産も相続の対象であることに変わりはないので、子どもなどの法定相続人が引き継ぐことになるでしょう。

不動産には権利関係を明確にするために登記制度が整備されているため、本来であれば、親が亡くなって相続が開始したタイミングで所有権の移転登記を済ませておくのが理想です。

もっとも、相続をしたからといってかならずしも登記変更義務が課されるわけではないので、親が亡くなって何年も経過しているのに、「未だに不動産の登記簿謄本上の権利者が親名義のままだ」という事態は少なくありません。そして、当該不動産を空き家のままにしておく場合や、そのまま子ども世帯が住みつづけるような場合には、親名義のままでも現実的な問題は発生しないでしょう。

しかし、亡くなった親名義のままの不動産を第三者に売却する際には事情が異なります。なぜなら、子どもが売却を予定している当該不動産の登記簿謄本の権利者は親の氏名が記載されている以上、買主となる人からすれば、当該売買契約の目的物と所有者にズレがあるようにしか見えないからです。二重売買や他人物売買のリスクがある取引に応じてくれる買主は現れないのが通常でしょう。

そこで、亡くなった親名義のままの不動産を子どもが売却する際には、いったん売主である子どもに所有権移転登記を移す作業が必須となります。つまり、売買契約の売主と目的物である不動産の所有者を一致させてから、売却手続きによって買主にふたたび所有権移転登記をするという流れです。

ここで、親名義から子ども名義に登記簿謄本を変更する必要が生じますが、その際には相続人がどのような比率・分け方で当該不動産を取得しているかによって次の3つの方法・手続きに区別されます。

  1. 遺言に基づく相続
  2. 遺産分割協議による相続
  3. 法定相続

参照:不動産の所有者が亡くなった(法務局HP)

それでは、各方法による所有権移転の方法・流れについてそれぞれ見ていきましょう。

洸太郎
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一度は子どもに所有権移転登記を移さなければいけない点を面倒と感じる人も少なくはないでしょう。相続人が多い場合などには時間・労力も要するので、不動産の資産価値が下落するおそれも。そこで、実務上は、登記移転手続きと売却手続きを同時に進めるために「相続による登記移転を停止条件とする売買契約」が締結されることがあります。しかし、これでは相続登記が完了しなければ不動産を取得できず、買主側のリスクを避けられません。したがって、買主が安心して交渉のテーブルについてくれるように、売却を希望する場合には、できるだけ早期に相続登記をすませるのがおすすめです。

遺言に基づく相続

被相続人(親)が作成する遺言書の内容は遺産分割協議・法定相続よりも優先されるもの。故人が決めた生前中の想いを実現するものとして尊重されなければいけません。

相続人である子どもが親名義の不動産の承継者として指定されている場合、「子どもに遺言による相続登記をして、その後、子どもが所有者として不動産売却手続きをする」という流れとなります。

遺言書に基づく相続登記をする場合には、次の書類が必要です。

遺言書に基づく相続登記の必要書類
・遺言書
・被相続人の死亡時の戸籍謄本
・被相続人の住民票の除票
・遺言により親名義不動産を取得する相続人の今現在の戸籍謄本
・遺言により親名義不動産を取得する相続人の住民票
・固定資産評価証明書

ポイントは、親の法定相続人である子どもが当該不動産を引き継ぐ場合であるために、遺言によって指定される相続人(子ども)と被相続人(親)の関係性を証明できる書類だけをそろえればよいということ。不動産を承継しない他の相続人にかんする書類は不要です。

また、自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合には家庭裁判所における検認が必要ですが、公正証書遺言の場合にはそのまま遺言による相続登記に使用することができます。

洸太郎
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遺言書の内容によっては、親名義の不動産の譲受人として法定相続人以外の第三者が指定されることも。この場合には、「遺言」という枠組みで登記名義が移転するのではなく、「遺贈」という別のルールで登記名義が移されることになります。もっとも、このケースでは「親名義の不動産を子どもが売却する」ことを考える必要がないので、今回は詳しい解説を省略します。

遺産分割協議による相続

遺産分割協議とは、相続が発生する財産の全部または一部について被相続人の遺言書が存在しない場合に、相続人間で「誰にどの財産をどのような比率で相続させるのか」を話し合うことです。

故人の遺志がはっきりしない場合、すべてのケースで民法の規定通りの相続を発生させてしまうと、どうしても不都合が発生します。「使わない不動産を押し付けられたくない」「預貯金はいらないからその代わりに親が大切にしていた遺品が欲しい」など、一定のルールの範囲内であれば、相続人それぞれの想いを実現しても誰も困らないはずです。

特に、親名義の不動産を相続する場合、遺産分割協議は有効な手段。なぜなら、遺産分割協議を経ずに(後述の)法定相続の方法で相続させてしまうと、当該不動産は複数の相続人による共有状態になるからです。不動産に対する権利者が複数存在すると、売却手続きなどでかなりの手間がかかってしまうでしょう。

したがって、「遺産分割協議で親名義の不動産を子どもが単独所有する旨を定め、相続登記をすませた子どもが売却手続きをする」という流れがとられるのが一般的です。

遺産分割協議で相続登記をする場合の必要書類は次のようになります。

遺産分割協議による相続登記の必要書類
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍
・被相続人の住民票の除票
・相続人全員の現在の戸籍謄本
・遺産分割協議で親名義の不動産を相続すると決められた人の住民票
・遺産分割協議書
・相続人全員の印鑑証明書
・固定資産評価証明書

注意しなければいけないのは、遺産分割協議には相続人への強制力が働かないにもかかわらず、すべての相続人が参加しなければ効力を発生しないという点です。つまり、誰かひとりでも相続人が欠けてしまうと、遺産分割協議で親名義不動産の名義変更をすることはできません。

また、不動産のような「見た目に資産価値が判定しにくい」財産が相続財産に含まれている場合には、遺産分割協議が難航するケースも多いのが実情です。現金のように案分しやすいわけではないので、利害関係の調整がつきにくくなってしまいます。

そこで、親名義の不動産売却を将来的に考えている場合において、遺産分割協議でスムーズに相続登記をすませたいのなら、弁護士・司法書士などの専門家に依頼をするのがおすすめです。書類作成業務はもちろんのこと、遺産分割協議が円滑に進むように、第三者の目線から交渉を進めてくれるでしょう。

法定相続

法定相続とは、民法で定められた法定相続分の規定通りに相続人に財産を承継する方法のことです。

遺産分割協議などの話し合いを行わずにスムーズに相続を完了できるというメリットが得られる反面、画一的な基準で財産を均等に配分するために相続人の意思を反映した柔軟な財産配分ができないというデメリットを避けられません。

次のように、法定相続では、誰が相続人かによって相続分の比率が異なるもの。被相続人の配偶者は常に法定相続人となり、配偶者以外の人については、①被相続人の子ども>②被相続人の直系尊属>③被相続人の兄弟姉妹、の順位で相続人資格を取得します。

相続人:配偶者と子ども(第1順位)
配偶者1/2、子ども(全員で)1/2
相続人:配偶者と直系尊属(第2順位)
配偶者2/3、直系尊属(全員で)1/3
相続人:配偶者と兄弟姉妹(第3順位)
配偶者3/4、兄弟姉妹(全員で)1/4

参照:No.4132 相続人の範囲と法定相続分(国税庁HP)

つまり、親名義の不動産を子どもが法定相続によって取得する場合は、「相続人が子ども1人しかいない場合」以外はすべて配偶者や他の子どもと当該不動産を「共有」する形で相続するということになります。

法定相続(共有あり)で相続登記をする場合の必要書類は次の通りです。

法定相続による相続登記の必要書類
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍
・被相続人の住民票の除票
・相続人全員の現在の戸籍謄本
・相続人全員の住民票
・固定資産評価証明書

共有状態で親名義の不動産を取得した場合、これを第三者に売却するためには”所有者全員の同意”が不可欠です。たとえば「せっかく親が購入した田舎の実家を売却するなんて賛成できない」という相続人が1人でも存在すると、売却手続きは不可能となります。

したがって、親名義の不動産売却を希望する場合には、遺言書がない以上は遺産分割協議によって子どもが単独取得・売却に賛成する相続人だけで不動産を取得するか、反対する相続人を説得する以外に方法はありません。法的トラブルに発展するおそれもあるので、かならず弁護士・司法書士などの専門家までご相談ください

親名義の不動産売却に反対する相続人を説得する方法

親名義の不動産の相続人が複数いる場合、売却するか否かについて相続人間で意見が分かれることもあるでしょう。

もちろん、相続人の誰かが親から承継した不動産に居住するのなら問題ありません(その場合には法定相続による共有状態は生じることは考えにくいです)。ただ、空き家の状態のまま複数の相続人同士で共有状態になってしまうと、全員の同意がなければ不動産売却が実現できないので、なんとしても反対意見をもつ相続人を説得する必要に迫られます。

資産価値ある不動産、親から承継した思い入れのある不動産を売却することに抵抗を感じる人は少なくありませんが、そのような相続人に対しては次のポイントを意識して交渉を進めてください。特に、空き家のまま不動産を所有しつづけること自体に存在するデメリットが明確になれば、売却に前向きになってくれる可能性は高いと考えられます。

未使用状態の不動産は管理コストがかかる金食い虫
空き家でも固定資産税、光熱費の基本使用料金、火災保険等、メンテナンス費用など、総額毎年数十万円以上の費用がかかる。
売却が遅れるほど不動産の資産価値は下落する
不動産の価値は年々下落するもの。よほど例外的な事情がない限り”今”がもっとも高値で売却できる時期なので、成約が遅れるほど手元に入るお金が少なくなる。
空き家所有者としての法的責任を問われるリスクがある
近隣住民などに被害が生じた場合(害虫や悪臭など)に民事上の損害賠償責任を負う。また、行政代執行の対象となったときに、費用の負担責任が発生する。
税制面で不利な扱いを受けるリスクがある
相続から3年以内のみ対象の”3000万円の特別控除制度”や、”特定空き家”に指定されたペナルティとしての固定資産税6倍ルールなど、空き家を所有しつづけると税金の負担が重くなる場合がある。

このように、親名義の不動産が空き家になった場合に所有をつづけたままでは、権利者に数多くのデメリットが生じることに。しかし、売却によって不動産の権利を手放せば、これらのリスクから完全に解放されます

また、空き家は”売却”以外にも幅広い処分方法・活用方法が考えられる資産です。そのような選択肢も提供することで、より前向きに売却等の処分を相続人全員で検討できるようになるでしょう。詳しくは、以下のリンク先の記事で解説しているので、あわせて参考にしてください。

【空き家の5つの処分方法】いらなくなった空き家を放置するデメリットと売れない時の対処法も解説

【空き家の5つの処分方法】いらなくなった空き家を放置するデメリットと売れない時の対処法も解説

2021年8月18日

注意!親名義の不動産を相続したときには相続税が発生する

親名義の不動産を相続した場合に注意しなければいけないのが相続税のこと。相続した財産の価額に応じて、次のような形で税率が定められています(平成27年1月1日以降に取得した場合)。

遺産総額 相続税率 控除額
1,000万円以下 10% なし
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円を超える 55% 7,200万円

参照:No.4155 相続税の税率(国税庁HP)
参照:No.4152 相続税の計算(国税庁HP)

このように、親から不動産を相続すると高額な相続税が発生します(相続人が複数存在する場合には、相続した財産価額の比率に応じて案分して負担)。

もっとも、「取得費加算の特別ルール(一定要件を充たす不動産売却について、”譲渡所得税”の算定基礎額から相続税を控除)」を利用できる場合があるので、かならず確定申告を済ませておきましょう。

洸太郎
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取得費加算の特例を利用して相続税を取得費に含める(=売却時の譲渡所得から除く)ためには、①相続によって不動産を取得した者による申告であること、②相続税が課税されていること、③相続税の納税期日の翌日から3年以内に売却していること、の3つの要件を充たす必要があります。つまり、親名義の不動産を早期に売却すれば、売却時に発生する譲渡所得税について優遇を受けられるので、できるだけ早期に売却手続きに踏みきりましょう。

相続で取得した親名義の不動産は3年以内に売却すると譲渡所得税を節税できる

親の死亡によって取得した不動産を売却する場合、売却益に対して譲渡所得税(及び住民税・復興特別所得税)が課されることになります。譲渡所得税の計算方法は次の通りです。

譲渡所得税の計算方法
譲渡所得 = 売却価格 – 不動産の取得費(不動産の購入価格等) – 不動産の譲渡費用
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 譲渡所得税率

そして、譲渡所得税率は不動産の所有期間に応じて異なります。具体的には、短期譲渡取得(所有期間5年以内)なら39.63%(取得税30%・住民税9%・復興特別所得税0.63%)、長期譲渡取得(所有期間5年以上)なら20.315%(取得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)です。

つまり、譲渡所得税の原則ルールからは、不動産は長期間取得してから売却した方が税制上メリットがあるようにも”見える”ことになります。

もっとも、親名義の不動産を売却した場合には、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」で譲渡所得額から最大3,000万円控除できるので、税制上の優遇を受けたい場合には、早期の売却手続きが急務です。

なお、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例が適用されるのは、「親の死亡によって相続対象の不動産が空き家になってしまう場合」だけです。つまり、生前親がひとり暮らしをしていた場合などに限られます。名義人の死亡後にも居住者がいる不動産を相続し、その後売却する場合には、後述する「居住用財産(マイホーム)を売ったときの3,000万円の特例」の対象となるのでご注意ください。

親の死亡後空き家になっている不動産について3,000万円の特別控除を受けるための代表的な要件は次の通りです。なお、実務上は詳細な要件判断が求められるので、かならず税理士等の専門家にご相談ください。

「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」の代表的な要件
・相続・遺贈によって取得した不動産を平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却すること(令和3年現在)
相続の開始があった日(親の死亡日)から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・相続開始の直前、被相続人(親)以外の人物が居住していないこと
・相続開始から売却までの間、居住・事業・賃貸等に使用されていないこと

参照:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁HP)

洸太郎
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「譲渡所得税だけに注目すると不動産を長期間(5年以上)所有してから売却した方が得。」「3,000万円の特別控除を使いたいなら短期間(3年以内)で売却しないと損。」という2つの相反する要請が働きます。ただ、不動産は年々価値が下落するもの、親の不動産の老朽化具合等を考慮すると、できるだけ早期に売却をして3,000万円の特別控除を利用した方がメリットが大きいケースが多いのが実情です。数年後の市場予測に長けた不動産業者などに売却時期についての相談をおすすめします。

親名義の不動産を売却して代金を子どもに贈与する方法

親名義の不動産の売却を検討している人のなかには、売却代金を子どもに譲りたいと考えている人も少なからずいるはず。息子夫婦のマイホームの購入費用・孫の教育費用など、人生のステップをこれから歩んでいく子ども世代は何かとお金が必要だからです。

もっとも、財産を自分以外の第三者に渡す場合でも気にしなければいけないのが税金のこと。子どものためとはいっても、異なる権利主体に財産を移転する以上は、贈与税・譲渡所得税などが問題となります。

そして同時に、子どものために親名義の不動産を売却する場合には、各種税制上の優遇制度も用意されているので、それらを総合的に考慮してどのような選択肢が経済的なメリットが最大化されるかを考えなければいけません。

そこで、子どものために親名義の不動産を売却する場合の注意点について、特に税制面の課題を中心に紹介していきます。

親が子どもに財産を渡すと贈与税がかかる

贈与税の計算方法は次の通りです。

贈与税の計算方法
贈与税 = (1年間で贈与を受けた財産価額総額 – 基礎控除110万円) × 贈与税率 – その他控除

参照:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)(国税庁HP)

そして、贈与税を計算する場合には、一般贈与財産(特例贈与に該当しない場合。直系尊属から未成年の子どもへの贈与など)と特例贈与財産(祖父母・父母などの直系尊属から20歳以上の子どもへの贈与など)で税率が異なるところ、それぞれ次のように高い税率が設定されています。

【一般贈与財産の贈与税】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% なし
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

【特例贈与財産の贈与税】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% なし
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

このように、特例贈与財産における贈与税では多少相続税が優遇されているとはいえ、相続税は相続人にかなりの経済的な負担をもたらすのが特徴です。子どものマイホームや教育費のために財産的な援助をする以上、できるだけ節税対策をしたいと考えるのは当然のことでしょう。

ここで売主側が考慮すべきポイントは、「親名義のまま不動産を売却して、売却代金を子どもに贈与する」のか、「不動産を子どもに贈与して(子どもに名義変更をするのが一般的)、贈与を受けた子どもが自ら所有者として売却して代金を手にする」のか、いずれの方法で贈与を完遂するのかという点。

というのも、この2つの方法では、親から子どもに贈与する対象が「現金」「不動産」で異なるものなので、贈与税の負担が変わってくる可能性が高いからです。

まず、子どもに現金を贈与する(親が自分で不動産を売却する)場合、贈与税の算定基礎は実際に手にした売買代金となります。たとえば、2,000万円で成約したなら、贈与税の算定基礎は2,000万円がベースです(具体的には、(2,000万円 – 110万円) × 45% – 265万円 = 585.5万円となります)。

これに対して、子どもに不動産を贈与する(子どもに登記を移転する)場合、贈与額の算定基礎は”不動産の評価額”が基準です。つまり、実際に2,000万円で売却できる不動産だとしても、路線価・固定資産税評価額をベースに価値を算出すれば売価よりも低い評価額(一般的には売却想定価格の7割~8割程度)が導かれることもあり得ます。たとえば、路線価等を基準として1,500万円の評価額を受けたのなら、(1,500万円 – 110万円) × 40% – 190万円 = 366万円です。2000万円の現金を贈与する場合と比較すると、贈与税だけでも200万円以上の違いです。

以上のように、手続きの順番に工夫を凝らすだけでも税金の負担を大幅に軽減できるので、売却を希望する際には、かならず税理士や不動産業者などにお問い合わせください。

洸太郎
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もちろん、売却の後先を考える要因になるのは贈与税だけではありません。たとえば子どもに所有権移転登記をした場合には贈与税の負担は軽減できるものの、登記手続きの費用(登録免許税や専門家への依頼料など)が必要です。また、不動産を売却するとなると譲渡所得税が発生しますが、譲渡所得税を親と子どものどちらが負担するのかも考慮する必要があります。このように、名義変更が絡む不動産売却ではかならず俯瞰的に損得を検討しなければいけないという点にご注意ください。

居住用財産の売却では3,000万円の特別控除で譲渡所得税を節税できる

親名義の不動産を売却する場合に注目したいのが「マイホームを売ったときの特例」。これは、居住用財産(マイホーム)を売却したときに発生する譲渡所得税について最大3,000万円譲渡所得から特別控除できるという制度です。

たとえば、不動産を2,000万円で売却できた場合には、(要件を充たす限りにおいて)譲渡所得から3,000万円は控除できるので、譲渡所得税が一切発生しないことになります。

もっとも、マイホーム売却にかんする3,000万円の特別控除制度の適用を受けるためには、あくまでも「居住用財産」として認められなければいけません。退去してから3年が経過している場合などは対象外になってしまうのでご注意ください。

子どものマイホーム購入目的で現金を贈与した場合には贈与税の非課税枠が増える

子どものマイホーム購入・新築・増築等の資金に充てるために直系尊属等から”住宅取得等資金”の贈与を受けた場合には、贈与税の非課税枠が増える」という特例を利用できる場合があります。対象になる贈与は、平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間のものです(令和3年現在)。

次のように、子どもが購入する住宅が”省エネ等住宅”(断熱性・耐震性・エネルギー消費量・バリアフリーなど)に該当するか否かによって非課税枠に違いがあります。

新築等に係る契約締結日 省エネ等住宅 省エネ等住宅以外の住宅
平成31年4月1日~令和2年3月31日 3,000万円 2,500万円
令和2年4月1日~令和3年12月31日 1,500万円 1,000万円

参照:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税(国税庁HP)

この特例の適用を受けて高額な贈与税を回避するためには、親から贈与されるものが現金でなければいけません。

したがって、贈与税の非課税特例の活用を希望するのなら、親名義のまま親自身が不動産を売却し、その代金を子どもに贈与する方法を選択してください。

洸太郎
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他にも、30歳未満の子ども・孫の教育資金のために贈与をする場合を対象にした「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」の特則などが用意されています。不動産売却をめぐる税制は複雑ですが、うまく活用すればかなりの節税効果も期待できるもの。かならず事前に専門家などにご相談ください。

親名義の不動産を売却するときに注意すべきことは5つ

ここまで紹介したように、親名義の不動産を売却する際には状況ごとに注意すべき点が少なくありません。

これらに加えて、不動産を売却するとき全般に当てはまる注意事項を守らなければ、せっかく所有している不動産を資産価値通りに現金に換えられないリスクも。法定代理などの法的手続き以外にも慎重に手続きを進めなければいけないということを肝に銘じておきましょう。

そして、不動産売却において特に注意すべきポイントは次の5つです。

  1. 不動産業者選びを慎重に行う
  2. 売却以外の方法も選択肢として検討する
  3. 成約したときには忘れずに確定申告をする
  4. 売却時には瑕疵担保責任(契約適合責任)に留意する
  5. 売却前に境界確定に注意を払う

それでは、各注意点についてそれぞれ見ていきましょう。

信頼できる不動産業者に親名義の不動産売却について相談する

不動産の売却は所有者自身だけでも行うことができますが、一般的には専門の不動産業者に依頼をした方がスムーズだと考えられています。

なぜなら、買主を探す・広告活動をする・買主と売価等について交渉する・登記手続きなどの実務処理など、素人だけでは満足に行えないリスクがあるからです。

とはいえ、「不動産業者ならどの会社に依頼しても問題ない」というわけではないことを押さえておきましょう。不動産業者ごとに得意分野は異なりますし、営業・広告活動や、売却までの付帯サービスなどの力の入れ具合にも差があるからです。

不動産売却を成功させるためには、売主側の事情を丁寧に把握してくれる業者への依頼が不可欠。不動産業者と締結する媒介契約の種類など注意すべき点が少なくありません。

まずはインターネットで簡単に利用できる”不動産一括査定サイト“を使っていくつかの候補を見つけましょう。そして、実際に営業担当者などと話をしながら、信頼できる業者を選ぶのがおすすめです。

なお、不動産業者選びの方法・注意点については以下のリンク先にて詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。

不動産売却を成功させるための業者の選び方!信頼できる不動産会社に出会う8つの方法を紹介

不動産売却を成功させるための業者の選び方!信頼できる不動産会社に出会う8つの方法を紹介

2021年8月5日

売却以外の方法も視野に入れて幅広い活用方法を想定する

不動産を所有しつづけることにはデメリットが少なくありません。たとえば空き家の状態でも固定資産税などの負担は発生しますし、定期的なメンテナンスにも費用がかかるでしょう。

もっとも、「今すぐに売却したい」と希望してもすぐに買主が見つかるとは限りません。特に、親名義の不動産は築年数などの条件面において市場価値が低いことも。もちろん、不動産業者のなかには業者による買取サービスを提供してくれるところもありますが、満足できる売却価格にならない可能性が高いです。

そこで、親名義の不動産売却を検討するときには、売却以外の選択肢も検討するのがおすすめ。実は、不動産には次のような活用方法が用意されているので、「使わないからといってかならず売却しなければ損をする」というわけではありません

賃貸物件として運営する
・家賃収入が手に入る
・借主が見つからないと収益が上がらない
・リフォームや修繕費用が発生する
親族などに無償譲渡する
・不動産の管理コストから解放される
・売却益が入らない
ゲストハウス・民泊を経営する
・インバウンド流入や観光地なら収益が上がりやすい
・一定の経営ノウハウが必要

他にも、更地にして駐車場にする、太陽光発電として土地を有効活用するなど、いろいろな方法が考えられます。

これらの有効活用の方法についても不動産業者に相談できるので、ご興味の方はぜひお問い合わせください。

なお、不動産の売却以外の選択肢については以下のリンク先で詳しく解説しています。なかなか買い手がつかないとお悩みの方はぜひ参考にしてください。

築30年前後のマンションでも売却できる?戦略を練って高値で売るコツを徹底解説

築30年前後のマンションでも売却できる?戦略を練って高値で売るコツを徹底解説

2021年8月5日

確定申告を忘れない

不動産を売却した場合には確定申告を忘れないでください。別に会社勤めをしている人も必要な作業ですし、申告漏れがあると延滞金などが発生するリスクを避けられないのでご注意ください。

確定申告をするのは、売却の当事者です。たとえば、親の代理人として不動産売却をした場合には”本人である親”が、相続登記を取得した子どもが売却した場合には”名義人である子ども”が確定申告をしなければいけません。

瑕疵担保責任(契約適合責任)に注意する

不動産売却で注意を要するのが売主側に課される瑕疵担保責任(契約適合責任)です。

瑕疵担保責任とは、契約の目的物である不動産に隠れた瑕疵が存在する場合に、売主側が後から損害賠償責任を負うというもの。たとえば、雨漏りや事故物件が契約後に判明した場合に、買主側に生じた損害を補わなければいけません。

もっとも、不動産は経年劣化が避けられないものでもあります。たとえば、構造上の問題など外からでは判断しにくい床下・屋根裏などの問題点をいつまでも売主側の責任で保証しつづけるとなると、売却後いつ瑕疵担保責任を追及されるか分からないというリスクに晒されつづけることになるでしょう。

そこで、特に親名義の古い物件の売却を検討している方は、売却前に既存住宅売買瑕疵保険などに加入しておくことを強くおすすめします。なぜなら、事前にインスペクションを受けた物件しか加入できないので売主への信頼度も高まりますし、万が一のトラブルが発生したときにも保険で対処できるからです。

売主側に有利な条件で売却を実現するため、そして、万が一のトラブルに巻き込まれないためにも、瑕疵担保責任への配慮を忘れないようにしましょう。また、大手不動産業者では自社保険サービスを用意していることが多いので、お問い合わせ下さい。

参照:既存住宅売買瑕疵保険について(国土交通省HP)

売却前に境界確定する

特に、田舎の古い不動産を売却するときに見落としがちなのが境界確定。不動産を売却するとしても、どこからどこまでが所有権の範囲かが明確でなければ、売却後に隣家とのトラブルが発生してしまいます。

そこで、不動産の範囲等が不明確な場合には、事前に土地家屋調査士に依頼をして境界確定を済ませておきましょう。また、長年境界が曖昧な状態で土地を占有されている場合には取得時効等について争わなければいけない可能性もあるので、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。

親名義の不動産を売却するなら専門家に相談しよう

今回ご紹介したように、親名義の不動産売却をする際には、状況ごとに注意すべき点が少なくありません。

たとえば、代理人資格を取得するための手続き・税金にかんすること・売却をスムーズに行うための注意点など、不動産売買に慣れていない個人だけで最良の方法を導き出すのは不可能に近いでしょう。

そこで、親名義の不動産を売却する際には、まずは不動産業者にご相談ください。実績豊富な不動産業者に相談すれば、成約に向けて積極的に活動してくれるだけではなく、代理人資格などの法的手続きや税金面にかんする注意点などを含めて適切にサポートしてくれるはずです。

不動産業者によっては、弁護士・司法書士・税理士などの専門家への無料相談サービスを用意してくれるところもあるので、業者選びの際にお役立てください。

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ABOUTこの記事をかいた人

30代、フリーランスライター・翻訳家。マイホーム購入のタイミングで不動産に興味をもつ。現在は関西の山奥で田舎暮らしを満喫しながら、めぼしい中古物件をリサーチする毎日。不動産関連の知識を深めながら、国内外問わず良い物件との出会いを待ち望んでいます。